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「女性であることがコンプレックスだった」女子ラグビー代表選手がイギリスで気づいた“日本のスポーツ界の問題点”
text by
吉田直人Naoto Yoshida
photograph byNaoto Yoshida
posted2021/03/01 17:00
15人制ラグビー女子日本代表の鈴木彩香。昨年11月にイギリスに渡り、現地でプレーしている
鈴木の所属するアルカス熊谷は、ほぼ全選手がセミプロで、午前中に3時間勤務して残りはラグビーに費やしていた。恵まれた環境だと思う反面、何かを失っているような気もしていた。
「生活がラグビーだけになってしまうと、失敗したときに崩れるのが早いと思うんです。ラグビーを引退しても人生は続きます。与えられたメニューをこなすことは得意でも、考える力がないと、社会で生きていくのは難しいですよね」
以前は「女性であること」がコンプレックスだった
鈴木自身、ラグビー漬けの人生を送ってきた。
「ラグビーをすることだけが“美”でした。それこそ恋愛とか、今では好きな美容も、ラグビーをする上では必要ないと思っていたんです」
小学生の時にラグビーを始めた鈴木は、当初男子に混ざって試合に出ていたが、「女がいるところを狙え」と標的にされた。そのことが逆にモチベーションにもなったが、女子選手の競技人口も今より少なく、年代別の試合もなかったため、自分の力量を試す場がなかった。「もし男に生まれていたら」と何度も思った。
考え方が変わり始めたのは大学生からだった。代表合宿の遠征費を稼ぐためにアルバイトをしていた鈴木は、ふと「もっと自分らしく生きてもいい」と思った。
「お洒落をしてもいいし、学生らしいことをしてもいいんだ、と。ラグビーから離れている時間で自分を保っていたような感覚でした。あのままラグビーだけをしていたら、“女性である自分”は一生いなかったかもしれない」
「男性社会に入っていた」という鈴木にとって、自身のアイデンティティを確立したのはラグビーから離れている時間だった。
「私はラグビーを通して成長できたと思っています。でも、すべてを捧げて一喜一憂することが脆いと気づいてからは、ラグビーは成長のための手段のひとつと捉えるようになりました。そこから生まれた心の余裕が、20年以上ラグビーを続けてもモチベーションを保てる理由だと思っています」
いままでの指導では「受け身の選手」を生むだけ
自身の考えと英国のラグビー文化を照らし合わせるうち、ぼんやりとしていた理想の指導者像も輪郭を帯びてきた。
「ラグビーだけの生活を送っていても世界では勝てないという現状があります。ラグビーを指導するだけで本当に強くなれるのかな、と疑問を感じるようになりました」