濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“日本一の美女レスラー”から東京女子プロレスの顔に 上福ゆきがリングで掴んだ「六本木ではできない経験」
posted2021/02/18 11:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
東京女子プロレス
東京女子プロレス第2のシングル王座インターナショナル・プリンセスのベルトを持つ上福ゆきがプロレスラーになったきっかけは「事務所のすすめ」だった。
もともとグラビアタレント、モデルとして活動しており、より活躍の場を増やし、知名度を上げようという狙いもあってプロレス入り。「こんな選手もいるから」と教えられて東京女子のグループ団体DDTに所属する赤井沙希を知った。赤井も芸能界からプロレスに挑戦していた。
そんなわけで上福はプロレスの知識が皆無と言ってよかった。そもそも“プロレスラーらしい雰囲気、立ち振る舞い”がどんなものか分からない。プロレス界の常識に対しては疑問ばかりだった。
「たとえば、なんでみんなチャンピオンになりたいって言うんだろうって。いろんな個性の選手がいるのに、全員チャンピオンを目指すじゃないですか。チャンピオンじゃなきゃレスラーじゃないみたいなのがよく分かんなくて。“二番手でも三番手でも楽しくない?”って」
デビューから3年あまりでベルトを巻いた
そんな上福が2017年のデビューから3年あまりでベルトを巻いた。社長の高木三四郎は「プロレスを知らないところからよくここまできたと思います。東京女子で最も成長した選手でしょう」と言う。
得意技の一つは目潰し。対戦相手を「バーカバーカ」と煽ったりもする。かと思えばドロップキックの打点が素晴らしく高い。もちろんビジュアルの印象も強い。雑誌のグラビアに登場した際には“日本一の美女レスラー”というキャッチコピーがついた。でもリングでは目潰し。負けることも多かったが、プロレスの知識がないからこそ独自の味が出た。“変”であることが魅力というタイプだ。
ただ、それだけではプロレスを味わい尽くすことにはならないのだった。ある時、赤井沙希にインタビューをしていて上福の話題になった。自分をお手本にプロレス入りした上福は妹のような存在であり、だが赤井はDDTらしいバラエティ色のある試合をしながら「芸能人に何ができる」という偏見とも闘ってきた。彼女は新人時代の上福をこう評している。
「見ていて面白いし楽しそうだけど、難点は勝とうとしているように見えないこと。やっぱりプロレスは勝つためにやるもので、笑いの要素にしても勝とうとする中から生まれるはずなんです」