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【川崎に新加入】「自分は“フロンターレっぽい選手”ではない」法政大ボランチ松井蓮之にスカウトが受けた衝撃とは
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byNaoki Nishimura/AFLO
posted2021/02/25 18:00
川崎フロンターレへの2022年シーズン加入を発表した法政大MF松井蓮之。フィジカルと豊富な運動量が武器のボランチだ
守田がポルトガルへ、補強のポイントに
川崎にとって守備が計算できるボランチは補強ポイントの1つだった。守備力に長けたタイプには守田英正がいたが、もともと海外志向が強かった25歳だ。仮にポルトガルリーグに移籍しなかったとしても、年齢的なバランスを考えて20代前半のボランチが欲しい――そこに急浮上したのが松井だった。
リーグ終盤、松井を重点的に視察した向島スカウトは、その度にぐんぐんと成長をする松井の姿に心を奪われていく。
「見に行く時に『今日はどんなプレーを見せてくれるのかな』と常にワクワクしている自分がいました」
その向島スカウトの熱量は、松井の耳にも届いた。「フロンターレが獲得に動き出すかもしれない」と、法政大・長山一也監督から言われた時は驚きしかなかったと振り返る。
「僕としては、ようやく法政大でレギュラーを掴めて、さぁプロになるためにアピールするぞと思っていた時だったので、『嘘でしょ?』と。フロンターレはずっと魅力的なサッカーをすると思って見ていましたし、試合だけでなく、YouTubeで練習動画を何度もチェックして、みんな本当にうまいなと思っていたくらいでしたから。だから、最初は『気にしてもらっているだけで終わるんだろうな』と思っていました」
「フロンターレっぽい選手ではない」
しかし、徐々に「フロンターレからオファーをもらいたい」と心から思うようになった。
「自分は、いわゆる“フロンターレっぽい選手”ではない。だけど、ここで本気で入りたいと思えば、たとえ実現しなくても、自分の足りない足元の技術やポジショニングなど成長を得られるかもしれないと思ったんです」
その覚悟が一層、松井を成長させる。
昨年の10〜11月、法政大サッカー部は新型コロナウイルスのクラスターが発生した影響で、1カ月もの自粛期間を強いられた。だが、この時間で松井は川崎の試合を見ながらノートを取り、特に守田の動きを熱心に観察した。全体のボールの動かし方、ポジショニング、攻守の切り替えなどを分析し、自分がピッチに立つことを頭のなかでイメージ。さらに自分が出場した試合映像も見返し、改善点とストロングポイントを整理した。
その成果はすぐにピッチの上で現れた。
正確なショートパスと中距離のパスを出してから、ゴール前のスペースを察知してスプリントして潜り込んでいく。相手の状況と戦況を把握し、攻守に関わる姿はまさにチームの心臓と言えるプレーぶり。12月に行った9試合を6勝1敗2分という成績で終えた法政大の原動力となった。
向島スカウトは、早期加入となった経緯をこう語る。
「10月の段階で、来年には確実に争奪戦になる選手だと感じました。年内に正式オファーを出すかどうか見極めようと思っていたのですが、もう12月の上旬で『間違いない』と確信できました」
12月29日に正式オファーをもらった松井は、「家族に相談をして、フロンターレで成長する気持ちが固まった」と、年明けに加入を決断。今年2月にはすでに沖縄キャンプに参加している。