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“名誉の切腹”を逃し、「川淵三郎」カードも失ったが…森喜朗会長後任問題、藤井聡太二冠並み“妙手の条件”とは
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph bySANKEI SHINBUN
posted2021/02/13 11:01
東京五輪・パラリンピック組織委の評議員会と理事会の合同懇談会前に言葉を交わす森喜朗会長(左)と川淵三郎氏
もし周囲に森さんの発言が完全にアウトだという認識があれば、ここは早々に舞台を退いていただき、人心を一新するという手段もとり得た。
言い方は悪いが、問題発言だけでなく、民意が五輪開催から離れつつある責任もすべて会長に押しつけ、世論の大転換を狙うという策もあった。
“名誉の切腹”をお願いする選択もあったはず
いまはどれほど非難を浴びようとも、開催にこぎつけさえすればきっと多くの人が喜んでくれる。だからここは、一人で泥をかぶってもらう名誉の切腹をお願いする。もし、森喜朗という人物の人となりがシンパから伝えられる通りであるなら、通らない話ではなかったし、悪い一手ではなかったと思う。
だが、介錯しておけば事態を好転させることも不可能ではなかったタイミングで、側近たちは違う一手を選択した。彼らはボスの発言を取り返しのつかない大失策ではなく、頭を下げておけばすむ程度のミスととらえていたわけだ。これが第二のズレ、というかミス。『3一銀』は打たれなかった。
“森発言”を強烈に否定する後継者を登場させていれば……
もっとも、ズレていたのは日本人だけではなかった。「謝ったから」という理由で発言を不問にしようとしたバッハ会長以下IOCの動きも相当にズレていた。
ただ、森会長を守ろうとして却って火ダルマ状態を招いてしまった日本人と違い、IOCは機を見るに敏だった。
日本人の怒りは黙殺した彼らも、欧米のメディアや団体、スポンサーからの反発には哀れなほどにモロかった。「ヨシローはわたしの兄弟だ」とまで言っていたバッハ会長は、小早川秀秋並の変わり身の速さでジェンダー平等を守護する側に転じた。少なくとも、彼にとっての森会長は「余人をもって代えがたい」人材ではなかったらしい。