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“名誉の切腹”を逃し、「川淵三郎」カードも失ったが…森喜朗会長後任問題、藤井聡太二冠並み“妙手の条件”とは

posted2021/02/13 11:01

 
“名誉の切腹”を逃し、「川淵三郎」カードも失ったが…森喜朗会長後任問題、藤井聡太二冠並み“妙手の条件”とは<Number Web> photograph by SANKEI SHINBUN

東京五輪・パラリンピック組織委の評議員会と理事会の合同懇談会前に言葉を交わす森喜朗会長(左)と川淵三郎氏

text by

金子達仁

金子達仁Tatsuhito Kaneko

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SANKEI SHINBUN

 大昔、神戸市立乙木小学校将棋クラブ部長だった人間からすると、NumberWebに掲載されていた『藤井聡太はもはやAIを超えたのか? 衝撃の一手「△3一銀」を振り返る』は実に興味深い読み物だった。

 なにしろ、藤井七段(当時)が23分間の考慮で指し、敗れた渡辺棋聖が勝敗の分かれ目だったと振り返った一手は、将棋ソフトに4億手を読ませても顔を出さず、6億手読ませると突如最善手にして現れるものだった、というのだ。

 恐るべし△3一銀。だが、伝説となったこの一手も、一手早ければ、あるいは一手遅ければ、ただの凡手、もしくは悪手になっていた可能性がある。

森会長は冗談のネタにできると考えた

 だとすれば、森喜朗会長の女性蔑視ととられかねない発言から始まった一連の騒動は、一手ズレた『3一銀』なのかもしれない。20年6月28日に藤井七段が打った伝説的な一手とはいかないまでも、十分な効果を秘めたはずの一手は、妙手どころか最悪の悪手となって打ち手を襲った。

 ただ、ズレは途中から生じたわけではなかった。最初から、ズレていた。というか、ズレていたからこその発言と、ズレていたからこその擁護だった。

「女性を蔑視したつもりはない」と森会長は言った。わたしも、彼が女性を蔑視していたとは思えない。ただ、本音のところがどうであろうが、そう受け止められたらアウトだということぐらいは、およそジェンダー平等の精神とは縁遠いところにいるわたしにだってわかる。仮にどれだけ腹黒い差別主義者だったとしても、公の場では口にしないぐらいの知恵はある。

 ところが、ハラスメントよりもさらにデリケートな問題を、森会長は冗談のネタにできると考えた。これがまず最初のズレ。

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