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巨人・桑田真澄コーチ「9回完投135球」論の本質 “昔の俺たちは凄かった”的OBと似て非なるワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byJIJI PRESS
posted2021/02/14 11:00
2013年、東大野球部を指導したころの桑田真澄コーチ。「9回135球」論には深い思考がありそうだ
今、「球数制限」に反対の意向を示し「今の若い投手は甘やかされている、ひ弱だ」というベテランは概ね30年以上前に活躍した選手たちだ。その当時と今では、球場の大きさも選手の体格も異なっている。
また当時の成績を見れば、大投手の陰には1、2年投げまくって急速に衰えて引退した投手がたくさんいた。幸運にも酷使に耐えて故障せず、生き延びて実績を残した大投手たちが「俺たちに比べれば、今の投手は」とマウントをとっていると見えなくもないのだ。
桑田コーチは実技、実績、研究でも一流だ
桑田氏は、根性論、精神論からは一番遠いところにいる野球人だ。早稲田大学大学院では日本野球の精神主義の歴史について学び修士号を取得、東京大学大学院では投手の動作解析などバイオメカニクスについて研究した。40歳を過ぎても130km/hを優に超すボールを投げることができた桑田氏は、大学院の研究では自らが実験台になることもあったという。
実績でも実技でも超一流で、しかも大学院で野球の社会史、科学について研究した桑田氏が唱える「9回完投135球」は「昔の俺たちはすごかった」的なOBの意見とは、全く異質のものであろう。
そのことをしっかり理解しないと、この議論を進めることはできないと思う。
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