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将棋、クイズ…なぜ“頭脳ゲーム”に人々は熱中するのか? スポ根漫画「数学ゴールデン」の作者に聞いてみた
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by藏丸竜彦/白泉社
posted2021/02/11 11:01
学問としてではなく、競技として数学を捉えた異色のスポ根漫画「数学ゴールデン」が今話題だ
「QuizKnockを見ていると楽しそうだし、“勉強”というものが最近はポップなコンテンツになってきていると思います。YouTubeやTwitterで自分の意見を発信しやすい世の中になっていて、何かを知っているということに価値が出てきた。知識欲が強くなっていると言うんですかね。昔は勉強って『俺はめちゃくちゃやっているよ』と表立って言うのではなく、さりげなくやることでしたよね。今の時代は『俺はこんなにものを知っている』と言ってみんなが次々に喋る。匿名で語られるものも含めて、それがどんどん出てきて変な世界になっている(笑)」
形のない知識を表現する「ほどける」
形のない知識というものの、何を、どう表現していくのか。『数学ゴールデン』の冒頭はこんな言葉から始まる。
思考をめぐらせれば
気持ち高ぶり頭の中はねじれ
――ふいにほどける
この「ほどける」という感覚が作品の肝でもある。その感覚は藏丸の教師時代のこんな経験にも基づいている。
「高校で教えていると、小中の積み重ねでどうしてもできる子、できない子で分かれているんです。たまに脱線した話をしてみると、点数には表れていなくても凄く数学的感覚があるなという子がいるんです。数学というのはもちろん一歩一歩進んでいく場合もありますが、こういう答えがあるんじゃないかと思いついてから、そこまでの道のりを埋めていく作業でもあるんです。その“答え”が見えた瞬間が、楽しさ、面白さであるのかなと」
それはそのまま数学オリンピックの特性にもつながってくる。
格闘の爽快感=数学の閃き
大会に参加するような人間なら一通りの数学の定理は覚えている。そこから先は「閃き」の勝負。答えがここにありそうだと見当をつけ、手持ちの相応しい知識を使ってそのゴールにたどり着ければいいのだ。
「数学オリンピックに出るような人は、みんな出題範囲の中はほぼ完全に理解して、すごく準備を整えています。ただ、スポーツでもそうですが、そこに何をやってくるか分からない敵が待ち構えている。準備は必要だけど、それだけではクリアできないのが数学オリンピック。参加者に言わせると、大学受験というのは、その準備の範囲内で収まるものらしいです。そこに違いがあります」
ただし、その「閃き」は決して数学エリートだけの特権ではないというのが藏丸の考えだ。