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東京五輪への厳しい世論は変わるのか? 為末大と考えた「五輪を目指すなとまで言われたら…ちょっと怖いですよね」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byAFLO
posted2021/02/07 11:02
00年シドニー五輪、400mハードルで転倒した為末。パナマ代表の選手に慰められた ©AFLO
為末 それと、スポーツとかエンタメの人が一番傷ついているのは、「自分たちは結構軽んじられている側にいたんだな」というのを世間の反発から感じたからだと思うんです。コロナによって、みんなが日々の営みになくてもいいもの、なくちゃいけないものをランク付けしていった中で、「みんな、本当は私たちをあまりいらないと思ってたのね」と。
今のままでは「スポーツのためだけにやる五輪」に見える
――音楽や演劇など他のエンターテイメントも我慢を強いられている中、オリンピックを開催しようという動きは目立つだけに、スポーツ優遇の印象を受ける人もいるようです。
為末 その点については、社会にとっての五輪のメリット、スポーツのメリットというのをスポーツ界がもう少しきちんと伝えていくべきだったと感じています。今のままでは、本当に「スポーツのためだけにやる五輪」に見える。オリンピックはその国全体に利益を還元できるものであって、国の課題の改善に役立つというメッセージをもっと強く発信するべきだったなと今になって思います。
――それは文化的な遺産、メリットという意味ですか? それともインフラなどを含めた社会の環境整備に役立つという話でしょうか?
為末 旧国立競技場って、スポーツはほとんど赤字部門で、たとえば嵐がコンサートをやったら利益が出る構造だった。だから、新国立競技場は早々とビジネス上は音楽メインで使うんだ、だけどスポーツの聖地でもあるのでスポーツでもきちんと使える構造にしましょうと示すべきだったと思います。
オリンピックという大きなものを動かすときに、日本が抱える課題を端々に組み込んで、スポーツを建前に作るけど、スポーツ界以外の人も恩恵を受けられるようにするべきだった。実際にそういう風に進めていたけどメッセージの打ち出し方が弱かったのか……。
スポーツの巨大イベントをやるんだからと強引にやってきたことへの反発が今表れているのだろうと思います。それは反省しないといけません。
「今回のオリンピックはしょうもない大会だった」はまずない
――2019年ラグビーW杯では、各国代表とキャンプ地の人々の心温まる交流が話題になりました。今回はそうした機会も少なくなりそうで、これから何をメリットとして訴えていくかは難しいところです。