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ワクチンが普及すれば東京五輪は開催できる? 感染症疫学専門家「接種しても他人を感染させないかは…」
text by
鳥集徹Toru Toridamari
photograph byGina Ferazzi/Los Angeles Times via Getty Images
posted2021/02/04 17:01
2月2日、米国カリフォルニア州の新型コロナウイルスワクチン接種会場の様子
五輪までに国民全員に打つのは難しい
実際、日本における新型コロナの死者は、約86%(5360人中4594人)が60代以上です。一方、五輪の中心となる10代、20代の死者は全体の約0.037%(2人/2021年1月27日時点)。決して侮ってはいけない感染症とはいえ、若い人のリスクは圧倒的に低いことがわかります。
それに、現実問題として東京五輪が開催される8月までに「国民全員にワクチンを打つことは難しいでしょう」と木村さんは指摘します。そのような状況の中で、「東京五輪を開くため」という理由だけで、命を脅かされる危険性の高い人たちを差し置いて若い選手たちが打つことは、国民感情としても許されないでしょう。
ただ、欧米で接種が始まっている「ファイザー(米)&ビオンテック(独)」や「モデルナ(米)」のワクチンは、臨床試験で約95%もの高い感染予防効果が示されています。日本でも接種が始まることで、コロナ禍が終息するのではないかと期待する向きも多いのではないでしょうか。ただし、これについても楽観視はできないと木村さんは話します。
「臨床試験で、自分が感染することは一定期間防げることが示されています。しかし、ワクチンを接種した人が、他人に感染させないかどうかはまだわかりません。なので、ワクチンが普及したからといって、必ずしもコロナ禍が終息するとは限りません」
「観客を入れることができるかどうか」も問題
それに、95%という高い効果が報告されているとはいえ、免疫がどれくらいの期間続くかどうかは不明です。接種が進むことで免疫を持った人が増えて、集団免疫が一定期間成立するかもしれませんが、免疫がなくなればあらたな感染の波が起こることも考えられます。また、あまり考えたくないシナリオですが、ワクチンの効かない変異ウイルスが蔓延する可能性もあります。
つまり、ワクチン接種が進んだとしても、「新型コロナに打ち勝った証」として東京五輪が開けるかどうかは、不明なのです。
新型コロナの感染が落ち着き、無事開催にこぎつけたとしても、もう1つ大きな課題があります。それは「観客を入れることができるかどうか」です。