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オシムも認めた前田遼一の才 中山雅史、高原直泰のエッセンスを受け継いだ“デスゴール”
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/01/17 17:01
黄金期を築いた中山や高原から多くのものを学んだ前田遼一。現役を引退し、来季からジュビロ磐田U-18のコーチに就任する
<名言3>
ジュビロという土壌が、遼一のストライカー像をつくっていったのだと思います。
(奥大介/NumberWeb 2010年11月17日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/63777
ブラジルW杯へ向けて歩み始めた日本代表。当時、話題になっていたのがストライカー前田遼一の覚醒だ。名指しで褒めることが少ないとされるイビチャ・オシムに「見た目はそれほど速く見えないが、いつの間にか相手にとって危険なエリアにいる。今の日本に不足しているタイプだ」と賞賛されるほど期待を集めていた。惜しくもW杯メンバーからは漏れるも、2010年は当時史上初だった2年連続の得点王に輝いている。
ただ、巧みなポジショニングやポストプレーなど献身的な姿勢が評価される一方で「力強さがない」と指摘されるシーンも多かった。自身初の移籍を決断したFC東京でのシーズンを前にしたインタビューでは、こんな風に語っていた。
「ジュビロでもそういう風に言われることは多かったですね。でも、先に“自分”が来て、“俺が中心だ”という風になると、むしろダメになると思うんです。そんなことが出来るのは、本当のスーパースターだけ。結局FWは周りに使われて、初めてゴールができる。パスが来なければ、シュートも打てないから。<中略>移籍をして改めて、サッカーはひとりじゃできないんだなと強く感じています」(2015年3月4日配信/https://number.bunshun.jp/articles/-/822814)
FWは周りに使われて――とは先輩である中山雅史の姿勢にもつながる。ジュビロ磐田の黄金期の一員として、多くのチャンスを演出した奥大介(享年38)は生前に前田を高く評価していた。
「ジュビロに入ったころの遼一は体の線が細かった。ゴンさんの影響を受けて体づくりに励み、フィジカルを強くしようと必死でやっていました。今の遼一の運動量とか、体の強さを見ていると、ゴンさんに似ています。それにドリブルや体の使い方、ポストプレーのうまさなどは高原に似ています」
中山が背負った「9番」の継承を固辞したのも目立つことを嫌う前田らしいが、2人の偉大なストライカーのエッセンスを授かった前田は以降、ジュビロの“顔”を引き継いだ。
J1得点数は中山に次ぐ5位
1月14日、39歳を迎えていた昨季限りでの現役引退を発表。会見は行わずに静かにスパイクを脱いだ。
J1通算154得点は、現時点で中山に次ぐランキング5位。ヘディングによる得点数では中山を抜いている。磐田ではクラブ初J2を経験するなど、先輩たちが築いたような黄金期は訪れなかったが、FC東京、FC岐阜と渡り歩いた先でも確かな足跡を残した。
今季は古巣磐田のU-18チームでコーチになる。前田にシーズン最初にゴールを奪われたチームは降格するという“デスゴール”でも恐れられた高いゴール奪取力。その技術は後続のストライカー育成にも大きく役立つはずだ。