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献身的なFW“ジュビロの前田遼一”は、
“日本の前田遼一”になれるのか?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2010/11/17 10:30
昨シーズン、前田が獲得したJリーグ得点王は、日本人選手としては史上5人目であった。前田の前は7年前の高原直泰までさかのぼることになる
「前田は運動量が非常に多く、個人技にも優れている。見た目はそれほど速く見えないが、いつの間にか相手にとって危険なエリアにいる。今の日本に不足しているタイプだ」
これは2007年6月、アジアカップの予備登録メンバーを発表した際に日本代表監督のイビチャ・オシムが前田遼一を選出したときのコメントである。
最終的に本登録から漏れてしまったものの、選手個人を名指しでベタ褒めすることなどなかった老将が独特の表現を使って前田の才を高く評価したことは、今でも筆者の記憶に深く残っている。
若手とは言えない26歳の、それまでA代表で試合経験のなかったストライカーに対してオシムは大きな期待を寄せていた。オシムが日本代表監督として最後の指揮を執った同年10月のエジプト戦。大久保嘉人との2トップで前田を先発させ、前田はその試合で記念すべき代表初ゴールをマークしている。
代表初ゴールから3年後、ナビスコカップのMVPに。
あれから3年――。
ジュビロ磐田が7年ぶりのタイトルに王手をかけたナビスコカップ決勝に、前田は絶対的なエースとしてピッチに立っていた。
守備では積極的にプレスをかけ、攻撃では味方のスペースをつくるために足を止めない。ポストプレーを淡々とこなし、ニアでつぶれ役になり、後方からのフィードに反応してボールを収めようしていた。
チームを支える川口能活も、主将の那須大亮も、「遼一が点を取ってくれたら、チームに勢いが出る」と同じ言葉を口にする。
チームのために走り、働くからこそチームの信頼が厚くなる。信頼があるからこそ、前田にボールが集まってくる。1-2で迎えた後半終了間際、右CKをニアの那須がヘディングで合わせて西川周作が弾いたボールを、ファーサイドからスルスルと縦に入ってきた前田がチームの思いをこめて左足でねじ込んだ。これで勢いに乗ったジュビロは計5発を叩き出して、初タイトルに燃えるサンフレッチェを粉砕したのだ。
2得点2アシストでMVPに選ばれた前田は2得点を「ラッキーでした」と振り返ったが、“周りのおかげ”というセリフが言外に込められていた。普段、あまり感情を表に出さないタイプの彼も、この日ばかりは報道陣を前にして嬉しそうに口もとを緩めていた。そしてチームの誰もが前田のMVPを祝福した。