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【春高バレー】驚き! 身長210センチ牧大晃の柔らかい動き “宝”を預かる若手監督の近道しない指導とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/01/14 06:00
準々決勝で優勝した東福岡に敗れたが、別格の存在感を発揮した高松工芸の牧大晃。まだ2年生だ
これまでの日本代表の最長身は、ミドルブロッカーとして1992年バルセロナ五輪に出場した大竹秀之さんの208cm。牧はすでにその身長を超えている。日本バレー界にとっては未知の領域の選手だ。しかもアウトサイド。世界を見渡しても、ミドルブロッカーやオポジットでは210cmを超える選手は増えたが、アウトサイドではなかなかいない。
高校入学時は、「まだ小学6年生ぐらいの体つき」(淵崎監督)で、怪我も多かったが、トレーニングを重ねて筋力をつけ、体重は約10kg増えて104kgになった。最高到達点も15cmほどアップして350cmとなり、初めての春高を迎えた。
しかし高松工芸は準々決勝で、優勝した東福岡に惜敗し、大会を終えた。勝ち進むにつれ、相手は徹底的にサーブで牧を狙った。牧はサーブレシーブを崩されたり、攻撃に入るのが遅れてブロックに捕まる場面もあった。
牧をサーブレシーブから外して、常に万全の状態で攻撃に入れるようにすれば、もっと得点を奪えたかもしれない。今チームが勝つことだけを考えれば、その方が近道だろう。
だが淵崎監督はその道を選ばなかった。ずっと先を見ているからだ。
若手監督が語るブレないビジョン
日本では、高身長の選手はミドルブロッカーやオポジットとして起用されることが多いが、そんな中で誕生した210cmのアウトサイド。おそらく日本では誰も育てたことがないであろうそんな宝を預かることに、32歳の若手監督はプレッシャーも感じている。しかし、淵崎監督にはブレない信念がある。
「彼を預かった時は本当に、自分にできるのかどうか、不安でした。ただ、『こういう選手になってほしい』というビジョンは自分の中にありました。そこは僕がブレたらダメだと思っています。
日本では、あれだけの身長があったら、オポジットというポジションに入るのが一般的です。でも、日本のポイントゲッターとして点を取るだけではなくて、サーブレシーブやつなぎもできて、動けて、ゲームメイクができる選手になってほしいんです。時間はかかるんですけどね。
何でもこなせて、でもそれが平均的にできるだけの選手じゃなく、その上で何か武器になるとがったものを見つけなきゃいけないと、常に言っています。そういうものを自分でわかっている選手が、日の丸をつけたり、海外に行ったとしても、通用すると思うので」
牧はどちらかというとおっとりした雰囲気で、コートの中でもあまり感情をあらわにしない。だが淵崎監督は、「やんちゃとか、エネルギッシュという部分は表面には見えないんですけど、本音の部分では、実は野心を持って、自分の将来の目標をしっかり定めてやっているんです」と明かす。