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ユニフォームがカワイイけど、実はつらい売り子の仕事 それでも彼女たちが千葉ジェッツでビールを売る理由
posted2021/01/08 11:00
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
CHIBA JETS FUNABASHI/PHOTO:KeisukeAoyagi
この状況でのBリーグは彼女たちの目にどう映っているのか。これは千葉ジェッツふなばしの船橋アリーナでビールを売る女性の話である(複数のビールの売り子さんに取材し、再構成しました)。
「まだー? 早くしないとお店で買っちゃうよ」
今年初めてのホームゲームでお客さんにそう声をかけられた。バックヤードを出てビールを売りに行こうとしているのを待っていてくれたみたいだ。
アリーナ内には飲食物を販売するブースもあって、そこでもビールを買うことができる。それでも、わざわざ私から買おうとして待ってくれる。私はそんな人たちから幸せをもらってる。
「いつもありがとう。君がいるからビールを買うんだよ」
頑張ってビールを売っている子なら、一度は言われたことのあるセリフだ。
そんな言葉くらいで喜ぶなんて、とあきれられるかもしれない。誰にでも言っているんじゃないの、と思われるかもしれない。
でも、そういうさりげない心の交流が私を幸せな気持ちにしてくれる。
誰かに優しくしてもらえれば、今度は私が別の誰かに優しくなれる。
だから、船橋アリーナでビールを売ることに喜びを見出せるのかもしれない。
これまでは5千人を超える人で埋まっていた船橋アリーナも、今はその半分しか来られない。お客さんの声援は聞こえないし、私も元気よく声を出してビールを売ることはできない。
それでも、やはり、私を魅了してくれるのはこの空間なのだ。
カワイイだけじゃない、ビール売りの仕事
最初はプロ野球のビール売りに憧れた。
ユニフォームがカワイイから。好きな野球の試合をタダで見られるから。
そんな動機でビールの売り子を目指す子は多い。私もそうだった。
そのかわいさとは裏腹に、実際は10キロを超えるビールの樽を背負って場内を練り歩く肉体労働そのものだ。
樽を背負ったら、一度しゃがんでしまうと立ち上がるのは至難の業だ。だから、机に置かれた満杯の樽に背中をあわせるようにして背負い、最初の一歩を踏み出す。
ビールが売れない日は、仕事の成果が出ないという精神的なつらさ以外に樽に大量に残っているビールの物理的な重さものしかかる。ダブルパンチだ。
それに、ビールを売っていると試合の様子なんてほとんど見られない。バスケの場合は展開が速いし、プレーが止まるタイミングも不定期だから、どちらのチームがリードしているのかさえわからないままビールを売ることもザラにある。
それは実際にこの仕事をやってみて初めて気がつくことだ。
野球の売り子からスタートして、そこから流れてくる子が多いのには理由がある。野球やサッカーのシーズンが春に始まって秋に終わるのに対して、バスケは秋に始まって春に終わる。
シーズンがかぶらないから、両方の売り子を続けられる。Bリーグができるまでは野球やサッカーのオフシーズンには別のバイトを探していた子も、今はそんな心配はない。