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箱根駅伝中継の生みの親が忘れられない早大の“大ブレーキ” 「残酷だと言われればそうかもしれない」
text by
松山梢Kozue Matsuyama
photograph byJIJI PRESS
posted2021/01/02 06:04
91年箱根駅伝での大ブレーキで視聴者を釘付けにした早大・櫛部静二はその後、悔しさをバネに数々の記録を生んだ
テレビが箱根を変えてはいけない
とはいえすべてのコースを途切れずに放送するのは不可能。そこで考案したのが、過去の大会に出場した選手などを紹介する名物企画、『箱根駅伝・今昔物語』だった。
「もともと生中継とドキュメンタリーをミックスさせるアイデアはあったのですが、巨人戦の中継でやろうと提案したら、見事却下されてしまって(笑)。だけど駅伝なら、実況中継の価値を高める方向性でミックスさせられると思ったんです。長い歴史を誇る箱根駅伝はエピソードの宝庫。取材をしていた当時は第1回大会に出場した方がご存命でしたし、当時を語ってくれた10人に9人が涙をにじませて思い出話をしてくれる。苦しい練習を重ねてきた選手たちの物語は感動的でした」
第1回の放送では3区~4区、7区~8区に別番組を挿入して放送。『今昔物語』はもちろん、各大学の放送部に学校紹介を作らせ、元箱根ランナーで映画監督の篠田正浩さんに優秀作品を選んでもらうなど、アイデアに満ちた放送になった。
「平均視聴率は18%。当時、日テレはフジとTBSの後塵を拝していたので、編成責任者の喜びようはすごかったですね。実は中継の成功もあり、放送後に全国大会にしないかという提案が社内で持ち上がったんです。でも僕はテレビが箱根を変えてはいけないし、時代が変わっていくほど、変わらない箱根駅伝の価値が高くなると信じていたので断固反対した。後輩にも放送させてもらっている気持ちを忘れないように、と伝えています」
登場するアナウンサーが全て男性の理由
坂田さんが「実は意外なところも当時から変わっていないんです」と言う。番組内に登場するアナウンサーが全て男性なのだ。
「女性を差別しているわけじゃないですよ。でも、なぜか箱根には男性の声が合う。これまでに一度だけ女性アナが出たことがあるんだけど、どうも違和感があったんですよね」