箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
地図研究家と見る、箱根駅伝往路ルート 尋常でない急勾配、急カーブの5区は「超人的というしかない」
text by
今尾恵介Keisuke Imao
photograph byNanae Suzuki
posted2021/01/02 06:03
間もなく幕を開ける箱根駅伝。その往路ルートを地図研究家の今尾氏が解説する
「ふつうの電車」は立ち入れない世界へ「5区」
●5区(小田原中継所~箱根・芦ノ湖畔 20.8km)
山からの冷風が吹き下ろしそうな地名、風祭の小田原中継所からは5区の山登りランナーが待ち受ける。このあたりの箱根登山鉄道は40パーミル、蒸気機関車の領域を超える急勾配だが、登山電車にとってはまだまだ序の口。国道は早川の流れに合わせて箱根湯本まで着実に高度を稼いでいく。箱根湯本駅ではロマンスカーを仰ぎ見、土産物店が並ぶアーケードを抜けてすぐ山道となるが、箱根登山鉄道はここからいきなり最急勾配の80パーミルで上っていく。この先は「ふつうの電車」が立ち入れない登山電車だけの世界である。80パーミルの勾配も日本最急なら、急カーブも最小半径30メートルと尋常でない。
その最急勾配を延々と続けても上りきれないのでスイッチバックが3カ所設けてある。道路の方はヘアピンカーブの連続で、箱根登山鉄道より緩い約67パーミルで上っていく。67は半端に見えて、鉄道や道路設計で長らく用いられてきた分数表記なら「15分の1勾配(1000÷15=66.666…)」で不思議はない。
途中の大平台駅は箱根登山鉄道のスイッチバック駅だが、道路もこれに呼応して見事なヘアピンカーブを描く。そのカーブの外側に位置したカメラは、選手が次々に上って急カーブを折り返していくお馴染みのアングルを映し出す。
それにしても、碓氷峠の旧信越本線と同じ勾配を湯本の標高95メートルから芦之湯近くのピークである874メートル(東京~大阪間の最高地点)まで標高差780メートルほどを延々と約13キロも、平均約60パーミルで走り上がるのは超人的というしかない。この区間の中で50パーミルを少し切るのが大平台~宮ノ下間で、少しはほっとできるだろうか。素人の私には「焼け石に水」のような気もするが。典型的な溶岩ドームの丸い頂を見せる二子山北側の最高地点からは同じレベルの急勾配を駆け下り、遊覧船の浮かぶ芦ノ湖と杉並木から関所跡を横に見れば、ゴールはもうすぐだ。いつもの大観衆は待ち受けていないかもしれないが、こたつ蜜柑の前では数千万単位の人が応援している。