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箱根駅伝前日にまさかの「ノロウイルス」…“7年前の悲劇”で走れなかった駒大主将「最近笑えるように…」
posted2020/12/31 11:09
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Koomi Kim
勤め先の会議室で、ひととおり話を聞き終えた直後のことだった。撹上宏光はふと表情をやわらげ、こんなことをつぶやいた。
「ほんと、笑い話にできたのは最近のことですね。それこそ競技を引退(2017年)してから。今の職場の方はみな事情を知ってくれているので、むしろイジりネタにしてくれて有り難いです」
笑って話せるようになったのは、大学4年生で味わった挫折体験のことだ。駒大陸上競技部の主将であり、主力メンバーの1人でありながら、彼は最後の箱根駅伝を走れなかった。その事実を受け入れ、自分を許せるようになるまでに、相応の時間を要したということだろう。
軽い口調ではあったが、言葉の持つ意味は重かった。話は、2013年の冬にさかのぼる……。
前日の異変「温水が水のように感じられ……」
撹上が医師から「ノロウイルス」の診断を受けたのは、箱根の往路スタートを翌日に控えた元日午後のことだ。
それまで何の兆候もなく、練習も普通にこなせていただけに、ショックが大きかった。だが、診断名を聞いて、はたと思い当たる節があった。たまたま主力メンバーに感染者は出ていなかったが、その2週間くらい前から陸上部寮でノロウイルスが流行りだしていた。そのウイルスがまさか、自分の身にも忍び寄っているとは思いもしないことだった。
朝練後のシャワーで、温水が水のように感じられ、寒気を覚えた。朝食もほとんど食べられなかった。寒気は気のせいだと思うようにし、しばらく誰とも話さず寮の自室に閉じこもったが、体はますますだるくなっていく。最後の力を振り絞るようにしてコーチに電話をかけたのは、1時間半ほどひとりで葛藤を続けた後だった。
すぐに救急外来に運ばれ、「ノロウイルス」の診断を受ける。頭の中が真っ白になった。