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「すべてはチームのために」川崎・齋藤学はなぜ岡本太郎の言葉で踏みとどまることができたのか
posted2020/12/31 11:06
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Etsuo Hara/Getty Images
遠征に呼ばれながらもベンチに入れなかった齋藤学はその3日後、等々力競技場のピッチに立っていた。
8月29日、ホームの清水エスパルス戦、今シーズン初めて先発を任された。この日は左ひざのケガで長期離脱していた中村憲剛が約10カ月ぶりにベンチ入りしたとあってチームのムードも高まっていた。10連勝でストップして前節のヴィッセル神戸戦も引き分けに終わっており、足踏み状態に。エスパルス戦の内容次第ではチームの序列が変わってくる可能性もあった。
齋藤がかなりネジを巻いてきたことはスタンドから見ても一目で分かるほどだった。
「大袈裟じゃなく、終わったら死んでもいいくらいの気持ちで入りましたね。(優勝を)決めたガンバ戦とはまったく逆で、全部俺がやってやるくらいの気持ちでしたよ。移籍期間も終わって、フロンターレで自信を回復していくしかない。ガムシャラにやるしかないって思っていました」
全部やってやる──。
己の力をこのワンチャンスで示さなければならなかった
表現するなら、いきり立つ。近づけばヤケドしそうなほどの熱を漂わせていた。引退を引き留めてくれた富澤清太郎、ずっと声を掛け続けてくれた戸田光洋、寺田周平両コーチ、そして支えてくれた周りの人々……感謝をカタチにするためにも、己の力をこのワンチャンスで示さなければならなかった。
ボールを持ったら積極的にドリブルで仕掛けていく。
深くまで持ち込んでシュートを放つなど、チーム最多の6本を放った。ゴールこそ決められなかったものの、彼のシュートをきっかけに味方がゴールを奪うなどチャンスに絡んで5発圧勝に貢献している。
この一戦で評価を得たことによって4日後のルヴァンカップ準々決勝ヴィッセル神戸戦でも先発し、1ゴール2アシストをマークする。自信が少しずつ回復していくのを実感するとともに、これまでやってきたことが間違いではなかったのだと思えた。