サムライブルーの原材料BACK NUMBER
「すべてはチームのために」川崎・齋藤学はなぜ岡本太郎の言葉で踏みとどまることができたのか
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byEtsuo Hara/Getty Images
posted2020/12/31 11:06
8月29日の清水エスパルス戦以降、出場機会が増えた齋藤。“もし出たとき”のための準備を怠っていなかった
岡本太郎に感銘を受ける
元々の趣味ではあるものの、苦しいときにこそ感銘を受ける本と出会うものなのかもしれない。それが芸術家、岡本太郎の『自分の中に毒を持て』(青春出版社刊)だった。
本書の最後にこんな一節がある。
≪死ぬのもよし、生きるもよし。ただし、その瞬間にベストをつくすことだ。現在に、強烈にひらくべきだ。未練がましくある必要はないのだ≫
岡本の言葉1つひとつが、心に刺さった。嘘のない日々を送っていれば、未練がまとわりつくこともない。
「俺、ちょっと前まで目標を立てていました。日本代表に戻るとか、今シーズン10点取るとか。でも捨てました。目標のために生きているのかと言ったら、違うなって思えたんです」
いつしか試合前に心を鎮めて岡本の本を読むことが習慣となった。
毎日の自分に納得できれば、自然と欲も消えていく
齋藤のバッグには岡本の本のみならず、中国の古典『菜根譚』を現代版に分かりやすく解説した本も入っているという。
「この本もいいんですよ。ノムさん(野村克也)の本を読んでいたら『菜根譚』が出てきて、興味があったのですぐに買って。こんな感じのことが書いてあるんです。欲を捨てると言って山に閉じこもるのは違う。生きている世界のなかで欲に負けないようにする、と。そうだよなって思いました」
毎日の世界に生き、毎日の自分に納得できれば、自然と欲も消えていく。
プレーでがっついたのはあのエスパルス戦くらい。以降は自然と自分よりもチームにベクトルが向いた。優勝を決めたガンバ戦の終盤、自分でシュートを打つかと思いきや小林にラストパスを送ったのもその証左と言っていい。リーグ戦でいまだノーゴールなら多少強引でも打つほうが普通。大差でリードしているならなおさらだ。それでも齋藤はパスを選択した。
もう一度その話を振った。