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世界一強い将棋ソフトのコストは? 開発者は「国家プロジェクトにしてほしいな、と(笑)」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/12/27 17:03
将棋ソフト「水匠」開発者で弁護士の杉村達也さん(左)と、吉沢亮主演映画「AWAKE」監督の山田篤宏さん(右)
山田 結局、書くことがベースにあるんですね。プログラムも1個間違えると、もう動かないことも……?
杉村 その通りです。バグを発見した瞬間はつらいんですが、自分の盲点に気づかされるので、それもまた楽しいといえば楽しいんです。
山田 ちょっとわかります。残酷な部分でもあるけど、僕も映画を理詰めで作っていくのが割と好きな方なので。とはいえ、杉村さんは本業で弁護士をされているのに、そう思えるのが凄いです。
杉村 仕組みや計画を考えるのも時間がかかるんですよね……。
山田 これ以上聞くとちょっとマニアックな質問になるんだろうなと思うんですが……「やねうら王ライブラリ」って評価関数の話なんですか? 色んなところでその優秀さを耳にはするんですが、僕自身がソフトの仕組みはわかっていなくて。
杉村 コンピュータ将棋への造詣が深いですね(笑)。軽く説明させてもらうと「やねうら王」は電王トーナメントにも出るなどの強豪ソフトで、誰でも使えるようにオープンソースとして公開されています。コンピュータ将棋ソフトには、2つの重要なシステムがあります。
読みを進める「探索部」と、その探索した局面を評価する「評価関数」です。「やねうら王」は両方を保持していて、なおかつシステムを切り離して部品として使えるんです。誰もが改良できやすいように開発者さんが設計してくれているんですよね。
将棋ソフトは開発者にとって「子供のように愛情を込めた存在」
――ここまでお話を聞いていて、開発者さんにとって将棋ソフトは手塩にかけた“子供”のような存在なのかなと感じました。
山田 僕もそれ、すごく思っていたことです。「Ponanza」(※2017年、電王戦で当時名人だった佐藤天彦九段に勝利したソフト)開発者・山本一成さんを主人公にした読み切り漫画があるんですけど、読んでみてとても興味深かったのは、山本さんがPonanzaを“自分の子供”のように目をかけて、大事に育てていたことでした。
それが頭の隅にずっとあって、今回の映画ではそれにプラスして、吉沢亮君演じる英一が、自身がコンピュータを育てることで友人ができ、人間的に成長していく姿を意識しました。機械を育てながら、1人の人間として成長していくのがすごく面白いかなと。
杉村 確かに「水匠」は私にとって子供のように愛情を込めた存在ですね。コンピュータ将棋関係者と繋がって、人脈もとても広がりました。
そもそも「コンピュータ将棋」って、開発者が誰なのかなどあまり説明されないものなんですよね。世間では「いきなり強くなって計算力で勝っている」というイメージがあると思います。でも実は開発すること自体が相当大変な作業の連続なので、苦悩しながら邁進していく主人公(吉沢亮)を見てすごく共感できました。
山田 そう言ってもらえてすごく嬉しいですね。