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井岡一翔「メリットのない試合」、田中恒成「キャリア最大の勝負」…大晦日“史上最高の日本人対決”の行方
posted2020/12/30 17:09
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Getty Images
恒例となった大みそかボクシング興行がコロナ禍に見舞われた今年も行われる。定着しつつあった複数世界戦ではなく、今回の世界戦は1試合のみ。大みそかの“顔”とも言えるWBO世界スーパー・フライ級王者、井岡一翔(Ambition)とこの試合に世界4階級制覇をかける田中恒成(畑中)の激突だ。世界戦数試合分の価値を感じさせる“史上最高の日本人対決”を占ってみよう。
まずはこの試合になぜ“史上最高の日本人対決”というキャッチフレーズがついたかを説明しなければなるまい。チャンピオンの31歳、井岡は80年代から90年代にかけて活躍したスター選手、井岡弘樹氏を叔父に持つサラブレッド。デビュー時から期待通りの活躍を見せ、当時の国内最速記録を更新するプロ7戦目で世界王者に輝いた。
以後、2敗を喫しながらも階級を上げてベルトのコレクションを増やし、19年6月、日本人選手として初の世界4階級制覇を達成した。世界タイトルマッチ数19、同勝利数17は歴代の名チャンピオンを押さえて堂々の1位だ。
井岡、井上を上回る5戦目で世界タイトルを手にした田中
一方、25歳の田中も遺憾なく天才を発揮してきた。井岡の7戦目を塗り替えた井上尚弥(大橋)の6戦をも更新する5戦目で世界タイトルを獲得。井岡と同じようにミニマム級からライト・フライ級、フライ級とクラスを上げて3階級制覇を達成。12戦目での3階級制覇は世界最速タイ記録という記録ずくめのボクサーなのだ。
世界タイトルマッチの日本人対決が初めて実現したのは1967年12月のこと。“雑草の男”小林弘が“精密機械”と呼ばれたWBA・WBC世界ジュニア・ライト級王者の沼田義明に12回KO勝ちでタイトルを奪った試合だった。
この試合が大いに盛り上がったおかげで以後、半世紀以上にわたって日本人対決は数多く組まれてきたが、ミスマッチと思えるような試合も少なからずあった。その点、今回の試合は両者の実績に非の打ちどころはない。史上最高の看板に偽りなしと言えるだろう。