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【退団インタビュー】DeNAラミレス前監督の柔和な表情が、厳しく変化した“ある選手の言葉”とは
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2020/12/20 11:04
最終戦を終え、手を振るラミレス。監督5年間の通算成績は692試合で336勝337敗19分とわずかに負け越したが、3度のAクラスに導いた
「自分のことを他の監督より優れているとはまったく思わなかったが、データを分析した量は他の監督より多かったかもしれない。それをベースに決断をしてきたし、また野球というのは生きているモノなので、前例のない判断を迫られるときには数字よりもフィーリングを重視することもある。もちろん批判されることは理解していたし、上手くいかないこともありました。ただ自分のなかでは勝つためのベストな決断をしてきたと自信を持って言えます」
勝率5割前後から抜け出せないまま……
そんなラミレス采配の象徴となったのが今年9月3日の巨人戦(東京ドーム)だろう。先発はリリーフのスペンサー・パットンだった。怪我人が多く苦しい先発ローテで、ブルペンデーになるとはいえ、この判断には誰もが驚かされた。
ただ今季のDeNAは先制点を許すと敗退することが多く、パットンにオープナーとして立ち上がり1~2イニングを粘ってもらい何とか先に得点できればという狙いがあった。
「たしかに今季は早い回に得点できると良い形で試合を進められることが多かった。また、あのときパットンは東京ドームでの数字が良くなくて、いつものように勝ちパターンで7、8回に使うと点を取られて逆転される可能性があると考えたんです。そこで逆転の発想でパットンには先発として1~2イニングをできれば最少失点にとどめてもらう。やはり150キロ以上のボールを投げる選手が初回から出てくるというのは相手に脅威になりますからね。試合の2週間ぐらい前に提案してパットンもやる気はあったのですが、結果的に大量失点することになってしまいました……」
パットンは1回1/3を9失点。この試合で首位巨人に3連敗を喫し、8.5ゲーム差。短いペナントを占う意味で大事なカードであり、ラミレスへの批判の声は大きなものとなった。
流れを変えようとしてあらゆる手を打つが、上手くハマらないままシーズンは過ぎていく。梶谷隆幸や佐野恵太、タイラー・オースティン、平良拳太郎、大貫晋一など個々の力は随所に発揮されるものの、ついには“点”は“線”になることなく、勝率5割前後から抜け出せないままシーズンは終了した。振り返れば怪我人も多く、思うようにチームは機能していなかったように感じられた。
監督のラミレスにはチーム編成に関する権限はなく、現有戦力をいかにフル活用し、勝利へ導くかが求められる。怪我人が多く出た2020シーズンは特に難しい局面もあったが、だからこそラミレスの工夫や采配の妙が光ったと言っていいだろう。だが、5年間という長き月日ゆえ、もう限界だったというのも正直なところではないだろうか。