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体操・村上茉愛、“恐怖の涙”を乗り越え五輪へ視界良好 「チュソビチナ」成功に見る24歳の確かな進化
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/12/18 11:01
全日本体操選手権の女子個人総合で2年ぶり4度目の優勝を飾った村上茉愛(中央)
涙を浮かべるほどの恐怖も感じていた
「チュソビチナ」は高い技術とパワーが要求される大技であり、つねにケガのリスクを伴う。試合で初めて跳んだ予選の演技ではラインオーバーがあって14.400にとどまり、「新しく飛ぶことに緊張して、心臓がバクバクいうくらいだった。いまでもまだゾクゾクしている」と涙を浮かべて恐怖心を吐露していた。けれども、中1日で臨んだ決勝の舞台では、きっちりと修正していた。
「かなり高い評価をもらえた。世界で戦っていくための武器を習得できつつあるかなと思う」。晴れやかにそう言った。
「東京五輪でメダルを獲る」ために始めた修正
もともと村上は小学生でゆかの「シリバス」を習得するなど、天賦の才能を持つ選手として知られてきた。加えて今回は「チュソビチナ」を成功。それだけに大技の使い手というイメージがあるが、強さの土台はそれだけではない。地道な努力で前進してきたことが24歳となった今の村上を支えている。
きっかけは17年秋のモントリオール世界選手権だ。種目別ゆかで日本女子にとって63年ぶりの金メダルを獲得した村上は、「東京五輪でメダルを獲る」という目標を明確に立て、そのためのプランとしてEスコア重視にシフトし、「0.1点を拾う」という取り組みを始めた。その中でいち早く修正に本腰を入れたのが、もっとも苦手としていた平均台だった。
「緊張するとフラつきがでてしまって、上げなくても良い足を上げてしまうことがあった。それ以外にも足割れや振り上げ倒立の角度を修正することなど、細かいところで0.1点を拾えるようにした」
さらに世界の採点傾向を精査し、減点の対象としてクローズアップされた、次の技に進む前の無駄な静止をなくす練習を開始。「最初は息が上がってつらかった。休む時間をなくすと、こんなにも辛いのかと実感した」と言いながら、16年には約1分30秒をかけて演技していたところから、17年は約1分20秒に短縮し、今回の全日本選手権では1分15秒まで無駄をカットしていた。最初から最後まで流れるような演技で、13.833。トップ争いの目安となる14点まであとわずかだ。