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内村航平、全選手最高点の“美しい体操”と 逆風覚悟の言葉で訴えた東京五輪への切なる思い
posted2020/12/09 06:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
AFLO
「'20年11月8日」は五輪史において、重要な役割を果たした一日として語り継がれることになるだろう。新型コロナウイルスの感染拡大以降、五輪競技で日本国内初の国際大会となる体操の国際交流試合が11月8日、東京・国立代々木競技場で開催された。日中米ロシアから現世界王者を含む30選手が参加し、有観客で行なわれた試合。東京五輪の試金石として国内外から注目された大会で主役を張ったのは、内村航平(リンガーハット)だった。
なんといっても鉄棒の演技が素晴らしかった。内村が国際大会に出るのは2年ぶり。しかも試合10日前のPCR検査が偽陽性で、2日半にわたって完全隔離されるという不測の事態にも見舞われた。しかし、鋼のメンタルの持ち主に影響はない。計算しつくした動きでH難度の離れ技「ブレットシュナイダー(コバチ2回ひねり)」を試合で初成功させた。9月の全日本シニア選手権ではバーを持った後に肘が曲がって減点された技。完璧に修正し、約2000人の観衆と世界の体操仲間に披露した。
全選手の最高点「完成度では満足できていない」
とりわけ目を引いたのは、高速回転とひねりを同時進行しながら、膝から足先まできっちりそろえた空中姿勢だ。続くG難度のカッシーナ、E難度のコールマンでも「美しい体操、ここにあり」を高らかに表現。技の難度を示すDスコア6.6点、実施の出来栄えを示すEスコア8.6点、合計15.200点は出場した全選手・全演技の最高点であり、'17、'18、'19年世界選手権種目別鉄棒優勝者を上回った。
「ブレットシュナイダーはもう少し良い位置でキャッチできると思っていたし、着地も止め切れていない。完成度では満足できていない」。内村自身の理想はさらに上にあるが、国際体操連盟は公式サイトで「内村は個人総合で世界選手権を連覇していた頃と同じ輝きを放った」と復活ぶりに感嘆しつつレポートした。
だが、ハイライトはこれだけではなかった。内村は閉会式で「東京五輪を『出来ない』ではなく、『どうやったら出来るか』と考えを変えてほしい」と生の声で訴えたのだ。逆風を覚悟のうえで口にした率直な思いは、多くのアスリートの心を代弁するものだった。会場から降り注ぐこの日一番の拍手に、内村は最後まで強いまなざしで応えていた。