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女性アスリートの「卵子凍結」という選択 スノーボード竹内智香が賛否両論を覚悟して公表した理由
posted2020/12/17 06:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Asami Enomoto
「卵子凍結という決断をしていなかったら、考えないようにはしていても、頭のどこかでずっと不安要素を抱えていたと思います。もちろん、将来子どもを持つことを保証されたわけではありませんが、気持ち的にはすごく楽になりました。この時代に生まれたからこそ選択でき、年齢的にもギリギリ間に合ったのかなと思います。この選択に出会えたからこそ、今、私はここにいられる。覚悟を持って、競技の世界で思う存分勝負できると思っています」
2014年ソチ五輪スノーボード女子パラレル大回転の銀メダリストで、18年平昌大会まで5大会連続五輪出場を果たした竹内智香は、平昌大会後の進退を保留し、一線から遠ざかっていた。しかし、約2年間の時を経て、この22年北京五輪を目指すことを表明した。
その背景には卵子凍結という決断が大きく関わっていた。
女性アスリートが悩むギャップ
女性アスリートの妊娠や出産、とくに出産後の競技復帰は大きな課題だ。近年は結婚や妊娠、出産を経て、再び第一線で活動する姿も多く見られるようになったが、日本ではまだまだ少数派だろう。一定期間、競技を離れることへの心理的な不安と“結婚したら引退”、“子どもができたら引退”という風潮が強く、さらに女性アスリートが産後に競技復帰を目指す環境もまだまだ整っているとは言い難い。
スポーツ界に限らず、女性の社会進出が目覚ましい現在は、一般社会においても結婚や出産などでライフスタイルが変化しても働き続けたいと考える女性は増加している。ただ、それを実現できる環境が整っておらず、ギャップが生じているのが現状だ。
一方で妊娠や出産にもタイムリミットがある。妊娠に必要な卵子は年齢とともに老化し、それに伴い(とくに35歳を過ぎると)妊娠しづらくなり、妊娠・出産の異常も起きやすくなると言われている。しかも、老化した卵子は若返らせることはできない。その狭間で悩み、葛藤している女性も少なくない。
そこで、キャリア形成と出産を両立する選択肢として注目されているのが、将来に妊娠に備えて卵子を採取し、凍結保存する「卵子凍結」だ。