酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
【井納翔一は?】数字で検証・巨人FA移籍で成功した投手はいるか? 人的補償で一岡&平良を手放した痛み
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKoji Asakura/Hideki Sugiyama
posted2020/12/14 17:16
巨人へのFA移籍選手で最も勝利を挙げているのは工藤公康(左)だ。果たして井納翔一はどうなる?
野手と同様、FA投手も「右肩下がりの後半キャリア」を高い年俸で買うことになるのだが、投手の場合、ホームグラウンドやバックが変わっただけで、なだらかな下降線を描くのではなく、成績が急降下する危険性もはらんでいる。
山口俊の2019年、15勝がキャリアハイ
そしてFA移籍投手は、移籍前の成績を上回る成績を残すことはほとんどない。唯一の例外は、山口俊が2019年にキャリアハイの15勝を挙げた例だけだ。
30歳前後で移籍した投手は、3~4年働けば「元を取った」と考えることも可能だと思うが、その後、成績が急落すると“不良資産”とみなされることも多い。特に投手の場合、杉内のように全く投げられなくなるケースもあるだけに、移籍する選手にとってもリスクはある。
さらに一岡竜司、平良拳太郎のように人的補償で移籍した投手が活躍すると、どうしても比較される。巨額の年俸を得たとしてもストレスの大きい立場だと言えよう。
井納は来季35歳。成績を予想すると……
井納翔一を獲得した巨人だが、井納は来季35歳。2014年には11勝を挙げたことがあるが、あとは1ケタ勝利。実績的には大竹寛よりもやや劣るレベルだろうか。
FA選手が以前在籍したチームの時代よりもいい成績を上げることはほとんどない――その前例に基づけば、井納は先発で5~6勝。あるいは大竹同様、中継ぎに転向する可能性もあるだろう。
菅野がMLB挑戦となるなら、今こそ変革を
筆者は、今年の日本シリーズの巨人惨敗の原因の1つを「先発偏重の投手起用」にあると以前のコラムで記した。先発完投型のエースが1人で、ペナントレースを勝ち抜くのはすでに時代遅れになっているし、短期決戦のポストシーズンでも有利ではない。
菅野智之のMLB挑戦によって、巨人は先発一番手不在のピンチを迎えた。井納の獲得はそれを補う一手だろうし、今後も外国人やトレードで先発投手の補強に動くだろう。
しかし筆者は菅野の移籍を契機に、巨人は投手陣を抜本的に立て直すべきだと思う。絶対的なエースはいない前提で、QS(6回以上投げて自責点3、先発投手の最低限の責任)が可能な先発が4枚程度、短期間なら通用する先発が2~3枚というイメージである。