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マラドーナ死去25日前の熱弁がナポリに奇跡を呼ぶ 本拠地の超速改名、ガットゥーゾ親分と選手の優勝宣言
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/12/09 17:00
「サン・パオロ」から「ディエゴ・アルマンド・マラドーナ」に改名された本拠地は“神”への愛情を示すファンであふれている
全員で“闘犬”の指導に食らいついて
「(完成の域にあった)3季前のチームに今年のチームが追いついたかどうかはまだわからない。今はまだ戦い方を模索している途中だからね。今、俺たちは全員でガットゥーゾ監督の指導に食らいついてる。うまくいってる実感があるんだ」
ガットゥーゾ親分はローマ戦以来、選手たちの目の色が変わったことに気がついている。
「どこかのポジションでミスした奴がいても、そいつをなじらず、全員でフォローし合って互いに励まし続けている。俺はこういうチームが好きだ」
「現役時代の自分みたいな選手はいらん」
そして、親分は至って真面目に「現役時代の自分みたいな選手はいらん」と続けた。
「サッカーはここ数年で本当に進化した。2020年現在のサッカーは、現役時代の俺ならまず対応できないような、頭を使ってやるサッカーだ。どんどん新しいことを学ばなきゃならない。だから、俺が今欲しいのはテクニックがあって頭がいい選手だ」
マラドーナへの弔いだ、スクデットだ、と真っ先に言い出しそうな人情家ガットゥーゾは、「ディエゴのためにタイトルを何か取らんといかんだろうな」と言葉を選びながら、努めて冷静に戦況を見極めている。昨季、指導者として初めてコッパ・イタリアのタイトルを獲ったことで、言動に貫禄が出てきた。
「ケツに胡椒を振って戦うんだ!」
親分は独特の言い回しで選手たちに檄を飛ばす。
「おまえら、どんな相手でも絶対に見くびるなよ。俺たちはこれからもケツに胡椒を振って戦うんだ」
とはいえ、マラドーナの死に際して、本人やナポリの町を卑しめるような声がなかったわけではない。
ユベントスの著名なOBであるアントニオ・カブリーニは「もしマラドーナがユベントスでプレーし(トリノで暮らし)ていたら、彼は今も存命だっただろう。彼はナポリの病んだ環境に毒されたのだ」とコメント。全ナポリ市民を敵に回した。
民放TV『メディアセット』の記者は自身のSNSに「たかがコカイン中毒者が1人死んだだけ、悲しむ必要はない」と書き込んだことで、マラドーナの遺族が激怒、謝罪に追い込まれている。
だが、そんな外野の声より大願を抱えた現場の選手たちには、耳を傾けるべき言葉がある。