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「不謹慎かも知れないけど…」レース前の新谷仁美の姿が泣けた理由…29年ぶりの陸上「神回」を振り返る 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2020/12/09 17:03

「不謹慎かも知れないけど…」レース前の新谷仁美の姿が泣けた理由…29年ぶりの陸上「神回」を振り返る<Number Web> photograph by KYODO

女子10000m、日本新記録をマークして優勝し、感極まった表情の新谷仁美。東京五輪代表に内定

 1周ごとのラップは72、73、74と美しい数字が刻まれていく。ブレはない。

 正直に言えば、世界陸上であっても、女子の10000mは少々、退屈である。ところが、この日の新谷の走りはエンターテインメントそのものだった。

 1周のラップは落ちないだろうか?

 えっ、全員周回遅れにするんじゃないか?

 結果的に、マラソンで東京オリンピックに内定し、2位に入った一山麻緒(ワコール)以外の選手すべてを周回遅れにしてしまうという、異次元の走りを見せた。

 走り終えると、新谷は笑顔を見せた。レース前とのギャップがすごい。テレビで観戦していたならば、その落差にこそ温かいものを感じたのではないか。

 レース前日には、

「結果が出なかったら横田コーチのせいです」

 と真顔で言っていたが、日本記録を出した後には、

「横田コーチのおかげです」

 と話した。なんだかホッとした。

箱根駅伝から始まった物語

 男子10000mも素晴らしいレースになった。

 相澤晃(旭化成)、伊藤達彦(Honda)が従来の日本記録を更新し、オリンピック参加標準記録を破った。そして3位の田村和希(住友電工)は参加標準にはわずかに及ばなかったものの、日本記録を上回っていた。

 田村から書いていくと、レース前に住友電工の渡辺康幸監督から「日本記録、行けると思います」という話を聞いていた。事実、調子が良かったのだろう。レースでは大迫傑(NIKE)の後ろにつくなどしていたが、前の動きに対応しすぎたきらいがある。そこでやや消耗したのが悔やまれるところだ。それにしても、大迫の存在感たるやすさまじい。

 伊藤については、8000mからの1周にしびれた。すでに優勝争いは相澤と伊藤に絞られていたが、伊藤は8000m過ぎに離される。ところが、ここからフォームが乱れつつも追いつき、それどころかペースメーカーのべナード・コエチ(九電工)をつつくような走りを見せたのである。ここでの伊藤の粘りが日本記録につながったのは間違いない。

 箱根駅伝から始まった物語は、ここへとつながっていた。

 相澤は伊藤に加え、ペースメーカーを務めたコエチのサポートを受けた。このレースの功労者のひとりが、コエチだ。正確なラップを刻むだけでなく、終盤には相澤や伊藤の様子を見ながらスピードの最適解を導き出していた。素晴らしいペースメイキングで、彼の功績は讃えられていい。

 それにしても、相澤の余裕度には目を見張った。落ちついてレースを進め、終始、自分の力を制御しているように見えた。レース後も淡々としたもので、今後に向けた課題をこう話した。

【次ページ】 1991年以来の「神回」

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