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人的補償で移籍、命に関わる大病…ベイスターズ・藤岡好明が引退「超満員のスタジアムで投げて終わりたかった」
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph bySANKEI SHINBUN
posted2020/12/09 11:06
ホークス、ファイターズ、ベイスターズでの15年間で337試合に登板した藤岡
「超満員のスタジアムで投げて終わりたかったなあ」
こつこつとキャリアを重ねながら、いつからかプロ野球選手として達成すべき目標を胸のうちに掲げ、そこへ至る道のりを逆算するようになった。「現役で15年」と「FA権取得」は成し遂げたが、「登板500試合」には手が届かなかった。ホークス、ファイターズでは在籍中に日本一を経験したが、ベイスターズでの優勝は叶えられなかった。
藤岡の最終登板は8月15日、スワローズ戦の7回表。6点のビハインドは、3つのアウトを取ってマウンドを降りたときには9点に広がっていた。その日、横浜スタジアムが迎え入れた観衆は4910人。平時の熱狂とはほど遠かった。
35歳はつぶやく。
「最後、超満員のスタジアムで投げて終わりたかったなあ」
いくつもの心残りは、これからの人生の燃料になるだろう。藤岡は引退と同時にベイスターズのファーム投手コーチに就任した。現役続行への思いはあれど、プロ野球のチームでコーチの職を得られることは「後退ではなく前に進むこと」と咀嚼できた。引退後の指導者への転身は、思い描いてきた目標の1つでもあった。
「自伝を出すなら『熱量』というタイトルがいい」
引退とコーチ就任の発表に際して出されたコメントには「野球への情熱は変わりません」との文言があった。以前、「自伝を出すなら『熱量』というタイトルがいい」と語っていた藤岡。淡々と言った。
「プレーヤーだったときから、うまくなりたい、一軍で投げたい、バッターを抑えたい、そういう思いだけは誰にも負けずにやってきました。辞めたいまでも、野球はうまくなりたいし、もっといい方法はないかって常に考えてしまう。その考えを、これからは選手がよくなるために、自分を犠牲にしてでも伝えていきたいと思っています」
笑顔の裏側でたぎらせ続けてきた野球への情熱。度重なった困難、苦悩、試行錯誤。そして、いまなお結論が出ていない数々の問い。そのすべてが、今後の指導に生きるだろう。一軍のマウンドがいかに特別な場所なのかを語り、若い選手たちを慢心から遠ざけるだろう。
筆者は勝手ながら確信している。
藤岡好明。きっと、いいコーチになる。