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人的補償で移籍、命に関わる大病…ベイスターズ・藤岡好明が引退「超満員のスタジアムで投げて終わりたかった」
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph bySANKEI SHINBUN
posted2020/12/09 11:06
ホークス、ファイターズ、ベイスターズでの15年間で337試合に登板した藤岡
「自分が主役だと思って臨まないと」
「これまでは、どこか自分でも『脇役でいいからチームに貢献したい』と思っている部分もあったけど、もっと目立つというか、マウンドに立った以上は自分が主役だと思って臨まないといけない」
だが、意気込みは結果的に空転した。コロナ禍に見舞われた2020年、特殊な状況下における調整の仕方を見誤った。一軍に上がれたのは8月になってから。登板は4試合。目標としていた「55試合」に遠く及ばず、主役になろうとしていた男はステージに立つことさえほとんどできなかった。
来シーズンの戦力構想に入っていないことを球団から告げられたとき、すぐには潔くなれなかった。「やりきったかと言われれば、やりきったシーズンではなかった」。身の振り方を考えつつ、思索はおのずとこれまで歩んだ道をさまよった。
「『楽しむ』と『勝ちにいく』は違うものだった」
自分はどうあるべきだったのか。いくつもの答えの出ない問いにぶつかった。その1つが、笑顔にまつわるものだった。
真剣勝負のマウンドで、重圧を打ち消すかのように頬を緩める。時には効果的なリラックス法だったが、果たしてそれでよかったのかとの自問は残る。
「難しいですけど、『楽しむ』と『勝ちにいく』は違うものだったかなと思います。本当に優勝するんだと考えたときには、笑顔ってなかなか出るものじゃない」
そうは言うものの、藤岡がマウンドで浮かべた笑みは自然な感情の発露でもあった。病を患い、復帰後も常に選手生命の瀬戸際に近いところを歩み、だからこそマウンドに、一軍のマウンドに立てている幸せを人一倍強く感じた。
いまもまだ、頭を抱える。
「人生としては、楽しむことはいい考えかもしれない。でもプレーヤーとしては甘いし、よくないなあって。正解がわかんないです、結局」
困ったように苦笑した。