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「絶対、前! 絶対! 絶対!」(久々に)スタンドで見たラグビー早慶戦、ラインアウトの魔力
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2020/11/26 17:01
秩父宮ラグビー場で行われた関東大学リーグの早慶戦(11月23日)、ラインアウトの様子
慶応にはフランカーの山本凱、センターの三木亮弥というハードタックラーがおり、彼らの辞書には「恐れ」という単語がないのでは? と想像してしまうほど激しいタックルを見せる。今季の慶応は、80年代ばりの「魂のタックル」を連想させる縦への強さを持っており、明治は完全に受けに回り、反則を連発した。
しかし、早稲田は縦の圧力に真っ向から立ち向かい、一発では倒れず、味方のサポートを待つ時間を稼いだ。おそらく慶明戦の研究の結果、2番目の選手の到達を意識付け、ボールの争奪戦で負けなかった。
“史上最高レベル”の早稲田バックス陣
そして縦に対してもっとも有効的な攻撃手段は、横へのゆさぶりであり、変化だ。
印象的だったのは、ふたつのトライに絡んだフルバックの河瀬諒介の動きだ。
前半34分、ウィング槇瑛人のトライを演出したのは、ワンバウンドしたパスを好捕し、横への絶妙の飛ばしパスを放った河瀬だった。このときは、パスで慶応ディフェンスを切りさいた。
そしてもうひとつ、後半26分の自身のトライでは、慶応ゴール前に迫ると、河瀬はパスを受ける前に横に伸び、三木のタックルポイントを巧妙にずらした。
受ける前に、伸び、ずらす。早稲田バックスの伝統芸である。
河瀬はしなやかな横への動きで三木のタックルをかわし、最後は相手ウィングを弾き飛ばして試合を決定づけた。柔と剛が凝縮した見事な個人技である。
それにしても、今季の早稲田のバックス陣の素質は、昨季に引き続き、史上最高レベルにあるのではないか。昨季はSH齋藤直人(現サントリー)、SO岸岡智樹(現クボタ)、CTB中野将伍(現サントリー)を擁したが、彼らの卒業を忘れさせる魅力がある。
SH小西泰聖、SO吉村紘のハーフ団は十分に魅力的であり、河瀬と高校からの同級生である長田智希は巧さを持ち、古賀と槇のウィングふたりは足が速く、判断が早い。
また、後半33分に吉村との交代で入った1年生の伊藤大祐は、昨季の高校王者・桐蔭学園のSO。大器であることは周知の事実だが、この日もカウンターアタックで大きく前進、魅力的なランナーであることをデビュー戦でアピールした。伊藤がリザーブで入ってくると、相手にとってみれば大きな脅威になるだろう。
同時刻にキックオフだなんて、あんまりだぜ
さて、両校の次戦は12月6日に控える。慶応は帝京と、早稲田は明治と激突する。
慶応は、ラインアウトからの得点率をいかに高められるかに注目したい。時間はある。
また、早稲田もラインアウトで新たな解決課題に向き合う。明治には190センチの片倉康瑛がおり、ラインアウトの攻防が大きな焦点となる。ただ、早明戦に限っては、理屈ではない面もある。最善の準備をしたとしても、最後には人間力が問われる瞬間がくる。
12月6日、この2試合が同時開催なのがなんとも恨めしい。同時刻にキックオフだなんて、あんまりだぜ。