スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「絶対、前! 絶対! 絶対!」(久々に)スタンドで見たラグビー早慶戦、ラインアウトの魔力
posted2020/11/26 17:01
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
KYODO
今季の大学ラグビーは、報道陣の数も規制されているため、取材できるかどうかがほんの数日前まで分からない。そこで、チケットを買って秩父宮で観戦している。
久しぶりにバックスタンドで観るラグビーには、いろいろと発見がある。低い位置だと全体像が見渡せない弱点はあるが、「声」がよく聞こえるのが面白い。
先日行われた早慶戦(11月23日)では、慶応ボールのゴール前ラインアウトが目の前で行われたが、早稲田のウィング古賀由教がずっと叫んでいた。
「絶対、前! 絶対! 絶対! 絶対!」
快速ウィングの古賀が叫び続けるので、スタンドからは思わず失笑が漏れる。スタンドとピッチの距離が近い秩父宮ならではの光景である。
ラインアウト研究は「慶応の伝統」
さて、伝統の早慶戦はこのラインアウトが見どころであり、勝敗の帰趨を左右した。
ラグビーにおいて、ラインアウトは研究しがいのあるセットプレーで、アタック側は様々なバリエーションが用意できる。ただし、ディフェンス側も相手を徹底研究し、対策を練ることが可能だ。
1980年代から、ラインアウトはチームの「ラグビーIQ」の指標ともいえ、慶応、早稲田、そして昔の旧対抗戦では、東京大学がラインアウト巧者ぶりを発揮していた。どうしても、偏差値という言葉が浮かんでしまうが、それよりも「オタク気質」が発揮されやすいのがラインアウト研究なのだろう。
80年代から、慶応は伝統的にラインアウトからのアタックがうまい。ラインアウトモール、ダミーモール(モールと見せかけて、サイドをアタックする)などバリエーションが豊富である。
慶応が仕掛けた「あまり見ないプレー」
この日、慶応唯一のトライとなったのは、後半19分の早大陣ゴール前からのアタックで、しつこく、しつこくサイドアタックを繰り返し、ナンバーエイトの高武俊輔がトライを挙げたが、ここで慶応は「モール再構築」という最近ではあまり見ないプレーでチャンスを広げている。