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8年連続決勝「市船vs.流経大柏」でも何かが違う…主将が明かす2020年の苦しみと涙の理由
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/11/23 11:01
千葉県代表の座を射止めた市立船橋。主将・石田は敗れた流経大柏へ感謝の言葉を述べた
変革の流経大柏、「弱い」と言われた市船
共に世代別代表経験があり、1年生から主力として名門の看板を背負ってプレーを続けた2人が目指すのはもちろん、プロ。しかし、互いの進路は未定。そんな苦しい状況下でもすべてをチームのために捧げてきた。
特に流経大柏は今季、変革期を迎えていた。無名のサッカー部を全国トップクラスの実力校にまで仕立て上げた本田裕一郎氏が退任し、長年コーチを務めてきた榎本雅大氏が監督が就任。限られた時間で例年以上にコミュニケーションが求められたが、それでも藤井は「最初こそ戸惑いはありましたが、榎本監督とコミュニケーションを積極的に重ねて、榎本監督の考えを理解してチームに伝えることが重要な役割だと思っていました」と、キャプテンとして新指揮官の考えや方向性を理解し、チームに還元していった。言葉だけではなく、練習中の走りでは常に先頭集団に入り、自分が苦しくても声を切らさずに周りを鼓舞し続けた。
一方の石田も市船特有のプレッシャーに苦しんだ。
「今年は周りから『弱い』と言われているのは知っていた。僕の中では『そんなことはない、このチームは絶対に強くなる』と思っていた。でも、練習試合や(再開された)プレミアリーグで勝てなくて、みんなの自信がなくなっているのがわかった。言いたくないことも言ったり、逆に盛り上げたりしないと本当に危機になるほど全体が暗かった。『自分が切れたら終わりだ』と思ってやっていました」
練習前に今日のトレーニングの入り方や課題などを再確認し、練習後のミーティングでは課題の整理や先週との比較といったより具体的なテーマを出すなど、選手だけのミーティングの回数を増やして細かい意見交換を促した。時には全員に紙を配って、今年のチームと個人の特徴と改善点を書いてもらうなど、チームのために積極的な行動を繰り返した。
コロナ禍によって仲間との時間が減ってしまった中、それぞれが1日でも長くこのチームでサッカーをするにはどうするべきかを常に考えてきた。同じ思いをチーム全員と共有したい――2人はその一心で、偉大な先輩たちの誰も経験したことがない未曾有のシーズンを乗り越えてきた。
後輩に受け継がれていくライバル関係
「まだ負けた実感はありませんが、市船には千葉の代表として全国で頑張ってほしい」(藤井)
「プレミアは昇格も降格もなくてモチベーションの難しさはあったのですが、選手権予選は何が何でも優勝したかったし、流経大柏を倒すために1つになれた。流経大柏がいてくれたからこそ、僕らも本気になれた。本当に感謝しています」(石田)
まだ彼らの高校サッカーは終わっていない。最後までその熱量で走り抜ける2人の姿に、後輩たちは何かを感じ取っただろう。こうして青と赤の2つの戦いの系譜は、また次の年へと引き継がれていく。