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8年連続決勝「市船vs.流経大柏」でも何かが違う…主将が明かす2020年の苦しみと涙の理由
posted2020/11/23 11:01
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
今年も“あの2校”が1つの枠を争った。
全国高校サッカー選手権大会千葉県予選。決勝の舞台に駒を進めたのは市立船橋高校と流通経済大付属柏高校だ。これで8年連続の決勝同一カード。全国の舞台に出れば優勝を狙える実力校同士なだけに、たった「1」の枠を争う熾烈なバトルが毎年のように繰り広げられている。
互いが目標に掲げる「選手権優勝」に臨むために避けては通れない「千葉ダービー」とあって、両キャプテンの言葉からも火花が散っていた。
「市船は僕らのユニフォームを見ると、いつもよりも倍以上の力を発揮してくる。それが選手権予選になると、なおさら火がつく」(流経大柏キャプテン・藤井海和)
「流経大柏は市船相手になると、プレスのスピードを一気に上げる。負けられないという気迫で飲み込もうとしてくる。特に選手権予選はバチバチです」(市立船橋キャプテン・石田侑資)
今季初対決が選手権を懸けた決勝戦
だが、今年は少し様相が異なった。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響でインターハイとそれに伴う予選がなくなり、共に所属するユース年代最高峰の「高円宮プレミアリーグ」も首都圏8チーム、1巡のみの開催(例年は2巡)、両校の対戦は11月29日に組み込まれた。つまり、今回の選手権予選決勝が今年初の顔合わせとなったのだ。
例年の流れを見ると、それがいかに異例なことかがよくわかる。象徴されるのが2015年だ。当時、千葉県代表の枠が2つ用意されていたインターハイでは予選の決勝、そしてその後に進んだインターハイ本戦の決勝でも対戦が実現。さらに共にプレミアリーグに所属していたため、そこでも2試合をこなし、選手権予選決勝までに実に4度も公式戦を戦っていたことになる。
“バチバチ”のライバルであるが故に、同じ千葉県同士ではあるが、練習試合で顔を合わせることはほとんどない。公式戦で対戦を重ね、互いに手の内を知り尽くした上で戦う“一発勝負”だからこそ、3年間の努力があらわれ、その全てをぶつけ合うことができてきた。そこにいくつものドラマが生まれてきたのだ。
「高体連でサッカーをやっている選手にとっては特別な存在」(藤井)である選手権の予選決勝を、お互いの強さを体感することのないまま戦うことは、市船がプレミアリーグに昇格した2014年以降を振り返っても初めてのこと。共に1年生から出場機会を得てきた経験豊富な藤井と石田をもってしても、試合前は戸惑いを隠せなかった。
「いつもなら手の内を知り尽くしている相手なのに、今年は映像でしか情報がなかった」(石田)
「相手の気迫とか、チーム状況を把握することのないままの決勝だったので、僕らが相手となった時の市船の怖さや迫力を味方に伝えきれなかった」(藤井)
しっかりと実力を出し合えるのか。何度も「千葉ダービー」を取材してきた者からすれば、一抹の不安があったのだ。