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8年連続決勝「市船vs.流経大柏」でも何かが違う…主将が明かす2020年の苦しみと涙の理由
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/11/23 11:01
千葉県代表の座を射止めた市立船橋。主将・石田は敗れた流経大柏へ感謝の言葉を述べた
試合後の「ありがとうな」
右足から放たれた岩田の一撃は2人の予感通り、弧を描きながらゴールに向かい、GK松原が必死で伸ばした右手の先をすり抜けてネットに突き刺さった。ピッチサイドで歓喜の輪に加わった石田の横で藤井は膝に手を置いた。まだ終わっていない。だが、精神的なショックは大きかった。そこからすぐにタイムアップのホイッスルがスタジアムに鳴り響いた。
その場でうずくまり、右手でピッチを何度も叩いた石田に対して、藤井は最後のワンプレーで足が攣り、その場に仰向けで倒れ込んだまま両手で顔を覆った。整列した石田は足を引きずりながら歩いてくる藤井の姿を見つけた。
「ありがとうな」
一瞬のやりとりだったが、名門の看板を背負って戦った思いは通じ合っていた。
「この勝ちで満足せずに僕は変わらずチームのために行動しながら、次は選手権制覇を目標に一歩ずつ前進していきたい」
決戦から一夜明け、石田はこう口にした。勝利の余韻に浸っている時間はない。全国で一番長く高校サッカーができる可能性を秘めた権利を掴むことはできた。流経大柏戦を含めたプレミアリーグの残り3試合と合わせて、チームがより多くの自信を掴み、選手権で勝つチームにする。伝統の市船のキャプテンとして決意に満ち溢れた表情が印象的だった。
失点を引きずっていた藤井
石田に話を聞いた翌日、藤井はまだ消化し切れない思いを口にした。
「今でもあのシーンでなぜセカンドを拾い切れなかったのか。なぜ拾いに行ってしまったのかと考えてしまい、答えが見つけ出せていません。チームとしても全国を見据えすぎてしまったのかなと。市船との試合を一番経験している僕がもっと市船に勝つことの難しさを伝えるべきだった。全国の厳しさばかり伝えていたが、まずは千葉県を突破することの難しさを伝えきれなかった。今思うと、僕らがPK戦を意識した時、相手は100分以内に決めると信じていたと思う。その思いの差が、あのゴールに繋がってしまった」
試合が終わった後、藤井は最後まで涙を見せなかった。「みんなの悔しそうな姿を見たら、キャプテンとして全国に連れて行けなかった責任を感じて、涙がこぼれてしまうと思った」と、表彰式の間は市船の選手たちをじっと見つめていた。しかし、学校に帰る車内で震えながら涙を流している仲間の姿が飛び込んできた瞬間、それが堰を切ったかのように溢れてきた。
「こんな思いをさせてしまった。でも、プレミアは残っている。残りの試合で守備の強度、攻め切る力、最後まで全員がハードワークをしながら、冷静に戦況を見て戦い抜くと言う『流通経済大柏らしさ』を1、2年生に全力で見せたい。市船戦を含めて勝ち切ることで、これぞ流経大柏だなと後輩や周りに示してから卒業したい。それがキャプテンとしての最後の責務だと思っています」