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心で叫んだ…ヤクルト3位「なぜ指名して欲しくない選手だったか」 ドラフトウラ話【ヤクルト編】
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2020/11/15 17:04
ヤクルトから3位指名され、花束を手にする星稜高の内山壮真捕手。右は同高の林和成監督
大学、社会人とステップを踏みながら、着実に技術を身につけ、全国大会や海外試合の大舞台で経験値を高め、日本じゅう、世界じゅうに多くの友人、知人を作って、アマチュア球界のトッププレーヤーになる。
さらに、アマチュア球界の指導者としていくつもの実績を重ねて、やがては、アマチュア球界全体のリーダーとして、今はプロ・アマバラバラの日本の野球界統一に力を尽くしてくれたら……。
人の一生を勝手に構築してしまうのは失礼な話かもしれないが、内山選手の実戦を何試合も目の当たりにし、試合後の囲み取材での様子を何度も見ているうちに、いつの間にか、そんな「願望」が心の内を占めていた。
遊撃手としての内山選手に感心したのは、いつもどこかを見ていることだった。人の様子を見ている、グラウンドの様子を見ている、風や天候の様子を見ている。雨空からポツリポツリ……と来た瞬間、もう右手をズボンのポケットに突っ込んでいる。亜細亜大の頃の、井端弘和遊撃手(元中日ほか)を思い出した。
「あんなに“出来たヤツ”に会ったことがない」
私は、内山選手と直接会って話したことはない。
しかし、囲み取材での発言を繰り返し耳にするうちに、内山選手の「人格」を確かに感じていた。
ピンチを切り抜けた場面を問われた内山捕手が、こんな話をしたことがある。
「見ている人からは、守ってる側がピンチに見えると思いますが、実際はバッターの方に余計プレッシャーがかかっているものなんです。それは、自分自身が打者として経験してるから間違いない……そういう話を、マウンドに行ってしたんです」
6対4でバッターの方にプレッシャーがかかる場面だから、心配しないで腕を振ってこい――投手をそう励まして、ピンチを切り抜けていた。
こんな場面を見たこともある。
試合が終わって、次の試合のチームにダグアウトを譲って引き上げる。ダグアウトに帽子が1つ残されているのを見つけた主将・内山壮真が、持ち主の選手の背中をさりげなくツンツンして、残された帽子をチョンチョンと指差した。
「指導者」に見えた。「教育者」のようにも見えていた。
会って話すことはなかったが、いくつもの「状況証拠」があった。星稜高・林和成監督だけじゃない。星稜中の田中辰治監督や五田祐也顧問……内山選手の周囲の「大人」で、彼を否定的に語る人に会ったことがない。
それどころか、「星稜の生徒で、あんなに“出来たヤツ”に会ったことがない」と、無条件で、彼の人となりを認めている。
まさか、内山選手がヤクルトの3位指名を断って、アマチュア球界に進むことはないだろうが、プロに身を投じるのなら、「メジャーを目指して……」とか、そういうことはあまり言ってほしくないな、と思う。
賢明な君のことだから、そんなことはないだろうが、プロに進むからには、選手としての「自己実現」の向こうに、球界全体のリーダーとしての自己実現も、内に秘めた最終到達点にして、できれば、心の中に持っていてほしい……と思う。
これが、まだ会ったこともない内山壮真選手への、せめてもの「送る言葉」としたい。
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