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事務所受付2坪の田舎町クラブだけど、サッスオーロが“サッカーの理想郷”なワケ
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/11/13 06:00
流麗なパス回しでセリエAを席巻するサッスオーロ。小さな街のクラブだが、大きな夢を持っている
2坪ほどしかない受付事務所の壁には
今から6年前、セリエAで2年目を迎えたクラブに当時のディフランチェスコ監督(現カリアリ)を取材するため練習場を訪ねたことがある。
辛うじてバールが一軒あるだけの殺風景な駅前を抜けて探し当てた練習場は、静かな住宅街の中にある簡素な造りの公営スタジアムだった。
2坪ほどしかない受付事務所の壁には、色褪せたペナントや長い下位カテゴリー時代の集合写真が無造作に重ねられていた。
練習を見ながら取材を待つ間、広報氏と「ネロベルデ(黒緑)のチームカラーは珍しいですよね。国内ではあまり見かけませんが……」と話していたら、聞き耳を立てていたらしい地元の古参記者からボソッと「ポルデノーネ(セリエB)、キエーティ(4部)、トゥットクオイオ(4部)……」とつぶやかれた。
こちらの知識不足に穴があったら入りたくなったものの、クラブの対応はどこまでもフレンドリーで取材はとてもスムーズにいった。
経営基盤が国内有数の盤石さ
牧歌的なのは他のプロビンチャーレと同じ。しかし、彼らには窮してカツカツしたところがない。
サッスオーロには凡百の地方クラブと決定的に異なる点がある。彼らの経営基盤は国内有数といえるほど盤石なのだ。
冠スポンサーでありクラブの親会社であるマペイ社は年間総売上28億ユーロ超を誇る世界的建築資材メーカーで、創業者スクインツィ一族はスポーツへの理解が深いことで知られる。
とりわけ2代目CEOを務めたジョルジョは“イタリアの経団連”といわれる産業総連盟の代表を務めた財界の大物で、自転車競技やサッカーへ情熱と資金を注いだ。
とはいえ、金に物言わせて有力選手を買い漁る、といった単純な話とは少し違う。スクインツィ一族はクラブが下位カテゴリーにあった80年代からスポンサーとして活動を支え続け、5部アマリーグ落ちの危機に瀕した2002年から本腰を入れて経営に携わるようになった。一族が重点を置いたのは、将来有望な若手選手と指導者育成、設備投資だった。