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事務所受付2坪の田舎町クラブだけど、サッスオーロが“サッカーの理想郷”なワケ
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/11/13 06:00
流麗なパス回しでセリエAを席巻するサッスオーロ。小さな街のクラブだが、大きな夢を持っている
「マンCと俺たちのやっているプレーが」
「TVで(名将グアルディオラ率いる)マンチェスター・Cの試合を見ていると、何度も俺たちのやっているプレーと重なるんだ。偶然の産物に見えるゴールも実は繰り返した練習の成果さ。俺はキャリアの中でファンバステンやクーマン、ミハイロビッチといった一流の指導者たちと仕事をしてきたが、一番はデゼルビだ。間違いない」
指揮官デゼルビは6節ナポリ戦でカプートとベラルディ、ジュリチッチの主力3人を欠いた。苦戦必至のはずが、サッスオーロは敵地サンパオロで2-0の完勝を収めた。
R・ソシエダとのEL遠征帰りでナポリが消耗していたのは確かだが、中盤を抑えようとした彼らが流れるように重心を変えるサッスオーロを捉えきれなかったのも事実だ。
イタリア代表MFロカテッリとマルセイユからやってきた新人MFマキシム・ロペスのダブル・ボランチは、まるでダブル・トレクアルティスタ(トップ下)のようにゴールへの道筋をダイレクトにつないだ。
「試合前、私が『たとえ主力抜きでも我々は強い。ナポリにだって勝てる』と言ったとき、選手たちは半信半疑だった。結果が出たのだから彼らも自信をつけただろう。私は根拠のないことは言わない」
19世紀にできたローカル線の終点駅
昨秋、いち地方クラブの監督にすぎないはずのデゼルビは「遅かれ早かれ、うちはチャンピオンズリーグに出る」と発言して周囲を驚かせたことがある。
虚勢でも妄言でもなかった。指揮官の自信はどこから来ているのか。
クラブ自前の「マペイ・スタジアム(21525人収容)」が、本拠地から約30km離れたレッジョ・エミリアという町にあるのはよく知られている。レッジョ・エミリアは街道の要衝で、イタリア国鉄の特急停車駅もあるから交通の便もいい。
人口4万の小さな町サッスオーロに行くには、急行駅のモデナから、さらに各駅停車の鈍行座席に40分揺られなければならない。発足したのは19世紀というローカル線の終点駅がサッスオーロだ。