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18歳で“プロ契約より銀行員”を選んだバイエルン監督・フリックは、どうやってチームを再建したのか?
text by
ティエリー・マルシャン&アレクシス・メヌーゲThierry Marchand et Alexis Menuge
photograph bySébastien Boué/L’Équipe
posted2020/11/15 17:01
CL決勝のPSG戦、コマンがキミッヒのクロスに頭で合わせてゴールをあげた。これが決勝点となった
名門バイエルンを去った監督たち
10月29日のドイツカップ2回戦の対ボーフム戦(アウェーの闘いでかろうじて2対1の勝利)や、4日後のフランクフルトでの大敗(ブンデスリーガ第10節。1対5で敗れた)を見る限り、昨季のバイエルンに多くを期待できないのは明らかだった。ルールシュタディオン(ボーフムのホームスタジアム)では、ブンデスリーガ2部のごく凡庸なチームに60mのロングシュートを決められた。試合終了7分前までリードを許し、相手ディフェンダーの理不尽な退場とミュラーの得点によりかろうじて勝利を収めた。チームには覇気がまったく感じられず、シーズン最悪の試合であるのは間違いなかった。さらにフランクフルト戦の惨敗を受けてクラブは、ニコ・コバチ監督の更迭とハンス・フリックの暫定監督就任を決めた。
名門バイエルンを率いるのは簡単なことではない。どんなに有能で高名な監督であろうと、成績次第で情け容赦なく解雇される。古くはウド・ラテック(1975年)にはじまりユップ・ハインケス(1991年)、エーリッヒ・リーベック(1993年)、オットー・レーハーゲル(1996年)、フェリックス・マガト(2007年)、ユルゲン・クリンスマン(2009年)、ルイス・ファンハール(2011年)、カルロ・アンチェロッティ(2017年)……。
バイエルンの監督を務めるのは、オールスターキャストのハリウッド超大作をずっと撮り続けるようなものだ。クラブの哲学を理解しながら権力を自在に行使し、人心掌握術も持ち合わせなければやっていけない。
コバチは失敗してフリックが成功した大改革
コバチは選手たちの弱点強化に力を注ぎ、彼らの不満を募らせた。フリックは長所を伸ばすことで彼らの情熱を喚起した。シーズン途中に赴任しながらこれほどの影響力を持ち得た監督はあまりいないのではないだろうか。思い起こすのは2016年のジダンぐらいである。