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敗者のメンタリティーを抜けだした日本ラグビー 4年越しの夢の対決“本物”ライオンズの隙は?
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/11/01 17:02
6月26日にブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズとのカードを発表したラグビー日本代表。ハードなカレンダーだが、“本物”との対戦へ準備を進める
敗者のメンタリティーから抜け出した日本
……と、ここまでは悲観的な、ネガティブファクターを並べてきたが、それが杞憂に終わる可能性も同じくらいにある。
ひとつは先方の事情だ。この時期は国内リーグのファイナルに当たっているあるいは直後という国もあり、実のところライオンズの選手がどれだけ揃うかは未知数だ。準備期間の短さという点では日本代表以上に短い。さすがに日本を相手に油断してはこないだろうが(正確には「油断してくることを期待してはいけないが」と書くべきだが)ライオンズにとってこの試合は、ベストの準備を施して迎えるターゲットの試合ではない。準備不足による隙もあるはずだ。
こちらの事情も過去とは違う。これまで長い間、日本代表の前に立ち塞がっていた「勝てないだろう」というメンタルバリアは、W杯の快進撃で選手自らが打ち破った。「しっかり準備を施せば」という条件はあるが、日本は強豪国とも互角に勝負できる。勝ちきる力はある。選手自身がそう思い込み、ファンもまたそれを当然のこととして要求している。日本ラグビーのカルチャー自体が、オールドファンやオールドジャーナリストが心の底深く刻み込んだ敗者のメンタリティーを抜け出している。
うまくいくと思えばすべてうまくいくわけではないが、失敗すると思って臨めば必ず失敗する。世界のラグビーの歴史は「自分たちは勝つ」と思い込んできたチーム同士が戦ってきた歴史だ。そこには、準備不足で臨みながら、何人かの経験値と予測不能なXファクターと指揮官の采配などがあいまって刻まれたたくさんの伝説的な勝利がある。日本がその系譜に新たなアップセットを刻む可能性もゼロではない。前述の「腕試し」についても、岩渕専務理事は事前のウォームアップゲームを組めるかどうかの見通しについては明言を避けたが「少なくともゲームに近い状況は経験できるように準備します」と言い切った。伸びしろはある。力の差は、昔思っていたほどはない。
91年の初勝利、15年の大番狂わせ
これまで、日本ラグビーにとってW杯の中間年とは多くの場合、「ライオンズに主力を取られたホームユニオン勢を破って勢いに乗る」のがテーマだった。1989年にはスコットランドXV(フィフティーン)を宿澤広朗監督/平尾誠二主将のチームで破り、1991年のW杯初勝利へ流れを作った。2013年にはウェールズ代表をエディー・ジョーンズHC/廣瀬俊朗主将のチームで破り、2015W杯の快進撃につなげた。ライオンズは、日本代表の輝かしい勝利を陰で支えた存在でもあった。
2021年、今度はライオンズそのものが、日本代表が狙うターゲットになる。観る人が思っている以上に、選手たち自身がそう思っているのは間違いない。
その先には夢の勝利が、もう少し先にはもしかしたら、ドリームチームが日本列島を転戦し、複数のスタジアムでテストマッチを戦い、ホームユニオンから訪れるマッドなラグビーサポーターが何週間にもわたって滞在する、ミニワールドカップのような時間が待っているのかもしれない。