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敗者のメンタリティーを抜けだした日本ラグビー 4年越しの夢の対決“本物”ライオンズの隙は?
 

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大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byNaoya Sanuki

posted2020/11/01 17:02

敗者のメンタリティーを抜けだした日本ラグビー 4年越しの夢の対決“本物”ライオンズの隙は? <Number Web> photograph by Naoya Sanuki

6月26日にブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズとのカードを発表したラグビー日本代表。ハードなカレンダーだが、“本物”との対戦へ準備を進める

北半球に“2票”投じた日本

 今年5月に行われたワールドラグビー会長選挙で、日本は現職だったイングランド出身のビル・ボーモント会長に2票を投じ、この行動は世界からは驚きをもって見られた。日本はこれまでSANZAAR(南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチンの南半球4カ国)など南半球の仲間と見られることが多かったからだ。世界ラグビーのカレンダー作りにおいても南側に位置づけられ、特にニュージーランド・オーストラリアとはチームの遠征や選手の留学、派遣、コーチの招聘など人的交流が深い。

 その日本が、SANZAARの一員であるアルゼンチン出身のアグスティン・ピチョットへ投票せず、北のボーモントに2票を投じたのだ。その投票行動も、今回のライオンズ戦実現への布石のひとつだったわけだ。

 ライオンズと対戦できることは、ラグビーの世界ではこの上ない名誉であることは間違いない。とりわけ、ケンブリッジ大学に留学し、オックスフォードとの定期戦に出場(両校の対戦に出場した選手に贈られる「ブルー」の称号も獲得した)、さらにイングランドのプレミアリーグ・サラセンズでのプレー経験も持つ岩渕さんはその重みを誰よりも深く理解していることだろう。

W杯のようなバックアップも休養もない

 一方で、手放しで喜んでばかりはいられない。

 対戦相手として認められる以上に大変なのは、そのステータスを維持し続けることだ。「あんなチームと試合を組んだのは失敗だった」と見なされて門を閉じられたら、次に同じステージに上がるのはもっと難しくなる。

 昨年のW杯は自国開催ということもあり、国内のすべてのチーム、選手の所属企業や協会、関係自治体までが日本代表の活動を損得抜きでバックアップした。平時ではありえないサポート体制が、初の8強進出という快挙を支えた。

 だがそれはいつまでも続かない。ここからは、持続可能な準備で、この実力維持そして向上が求められる。南半球各国との連携も失うわけにはいかない。政治的な駆け引きだけではない、実力に裏付けられた信頼を勝ち取らなければならない。そのために必要なのは、自分たちのステータスを高めていくこと。

 まずは来年、夢の試合に、日本はどんな態勢で乗りこめるかだ。

 昨年のW杯までの道のりを振り返ると、選手に徹底して休養を与え、コンディションを整えて本番に臨んだことがわかる。前年のトップリーグと日本選手権はクリスマス前にすべて終了。W杯に備える日本代表選手はほとんどが2月いっぱいまで強制的休養を課され、多くの選手がサンウルブズの試合も免除され、計画的なコンディショニングとトレーニングに励んだ。

 日本がライオンズと対戦するのは6月26日。これはライオンズの遠征開始前という時期で動かせない。日本のトップリーグおよびそれに続く日本選手権は5月いっぱいまで続く。準備期間は実質1カ月に満たない。加えてW杯後はただでさえ選手が入れ替わる。しかも今回は代表戦に1年間のブランクがあり、従来になく主力が入れ替わる可能性がある。

松島、姫野の招集は可能か?

 また、フランスのクレルモンに移籍した松島幸太朗、ニュージーランドのハイランダーズに挑戦する姫野和樹のように、海外でプレーする主力選手を招集できるかどうかも不透明だ。経験値の高い彼らが合流できない、あるいは合流が遅れる可能性も想定しておかなければならない。しかもライオンズ戦は国際交流シーズンの前に組まれているから、日本が本番前に腕試しの試合を組もうにも、仮想ライオンズと位置づけられるちょうどいい相手はそう見つけられそうにない。

 その状態で、日本代表は、時差のあるヨーロッパまで出かけていって、ドリームチームと対戦するのだ。

【次ページ】 敗者のメンタリティーから抜け出した日本

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