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大迫勇也が“カメルーン戦だけ出られた”交渉とは JFA、TV局関係者が語る欧州遠征の「綱渡り」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2020/10/30 17:01
カメルーン戦に先発出場した大迫勇也。しかし彼を招集するということ1つをとっても、非常に難しい綱渡りを強いられた
ブレーメンは派遣を拒んできたが
最終的に、感染対策を万全に施すといった条件が認められ、また、オランダサッカー協会とJFAの良好な関係のおかげもあって、オランダ政府はヨーロッパ各国に散らばる日本の選手たちの入国を認めてくれた。
だが、それでもセルビア、ロシアでプレーする浅野拓磨、橋本拳人の招集は断念せざるを得なかった。
州のプロトコルが非常に厳しいブレーメンは大迫勇也の派遣を拒んできたものの、JFAの粘り強い交渉によって、最終的にカメルーン戦の1試合だけ参加することが許可された。
こうして10月1日、日本代表メンバー発表までこぎ着けたのだった。
ファンのためにどう中継を見せるのか
一方その頃、JFAマーケティング部によるもうひとつの戦いが進行していた。
1年ぶりに開催される日本代表の試合を、全国のファン・サポーターに届けられるのかどうか――。テレビ中継の問題である。
日本代表に関わるマーケティング部の仕事は、大きく分けてふたつある。
ひとつはテレビ中継の環境を整え、多くの人に日本代表戦を楽しんでもらうこと。もうひとつは、スポンサー企業とともに日本代表のファン・サポーターを盛り上げること。その結果として、スポンサー企業とファン・サポーターの絆を深めたり、スポンサー企業のブランドの露出機会を増やす。このふたつが大きなミッションとなる。
ところが、1年近く日本代表戦が行なわれなかったため、マーケティング部・部長の高埜尚人はもどかしい思いを抱えていた。
「新型コロナウイルス感染拡大の影響とはいえ、日本代表が活動できていないことに対して、スポンサー企業の皆さまには申し訳ない気持ちでいっぱいでした。ただ、このコロナ禍で“サッカー日本代表”というコンテンツが先細ってしまわないように、ぜひともサポートしてほしい、日本サッカーの未来を一緒に盛り上げてほしい、という話をさせてもらいました。スポンサー企業の方々は理解を示してくれたし、もともとJFAの理念に賛同してパートナーになってくださっている。だからこそ、違う形で恩返しできないものかと考えていました」
日本代表の活動再開は6月になっても目処が立たなかったが、夏休みには日本代表ブランドのもと、スポンサー企業と子どもたち向けの特別オンライン課外授業を実施した。
キリンによる「熱中症対策」、アディダスによる「キットマネージャーのお仕事」、ファミリーマートによる「SDGs」、クレディセゾンによる「キャッシュレス」の授業などが、それである。
こうしたデジタルコミュニケーションの経験がオランダ遠征におけるスポンサー企業とのイベントにおいて役立つことになるのだが、日本代表の活動再開の話が持ち上がったとき、さしあたって高埜の前に立ちはだかったのは、テレビ放映の問題だった。