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日本代表オランダ遠征は「何度も無理かも、と」 反町技術委員長&田嶋会長が明かす舞台裏
posted2020/10/30 17:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Getty Images
今回、この遠征に関わったJFA関係者、テレビ局員に取材をし、舞台裏からこれがどれほど大きな「挑戦」だったかを4回(#2、#3、#4)にわたって、「Jをめぐる冒険」連載中の飯尾篤史氏が深部まで描く。第1回は日本代表のマッチメークが動いた瞬間について。
植田直通の渾身ヘッドがコートジボワールのゴールネットを揺らした瞬間、「よし!」と拳を握りしめた日本サッカー協会(JFA)技術委員長の反町康治は、ピッチ上に広がる歓喜の輪を見て、苦笑せずにはいられなかった。
「海外ではどういったガイドラインに従っているのかは分からないけど、我々のガイドラインでは、口に含んだ水を吐き出してはいけない、倒れた選手に手を差し伸べてもいけない。得点したあとにハイタッチをしたり、抱擁するのもダメだぞ、と言っていたのに、みんな、植田に抱きつきに行ったからね。でも、仕方ないかなと。だって、あの場面で感情を表現できなかったら、それはもう、サッカーじゃないからね」
このゴールでコートジボワールを1-0と下した日本代表は、0-0に終わったカメルーン戦と合わせ、1勝1分の成績でオランダ遠征を終えた。コロナ禍における厳戒態勢のなかで行なわれた日本代表の約1年ぶりの活動は、反町の目にはとても有意義なものに映っていた。
「1年ぶりに試合を組めたというだけでなく、日本も相手もコンディションが良くてガチンコ勝負ができた。それに2試合とも拮抗した試合で、少しでも気を抜けばやられるという緊張感があったよね。1試合目はうまくいかないところもあったけど、2試合目は修正して勝ちに繋げられた。そういう意味では、2試合以上、5、6試合ぶんの価値があったと思う」
だが、改めて激動の2カ月間を振り返ると、これほどまでに有意義な遠征になったことが、ちょっと信じられない思いでもあった。
「いったい何度、これはもう無理かもしれない、と思ったことか……」
代表戦をやる場合、強制力はあるのか
アジアサッカー連盟(AFC)が10月、11月のインターナショナルマッチウイークに予定されていたカタールW杯アジア2次予選を2021年6月に延期すると発表したのは、8月12日のことだった。
これで3月、6月、9月に予定されていた6試合に続き、またしても日本代表の試合が延期となった。
AFCの理事であるため、その情報を真っ先に入手したJFA会長の田嶋幸三は、その場でAFCに確認を取った。
「10月、11月に代表戦を行なう場合、選手招集に対する強制力はあるんですか?」
このとき、田嶋が「強制力」と言ったのには理由がある。