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大迫勇也が“カメルーン戦だけ出られた”交渉とは JFA、TV局関係者が語る欧州遠征の「綱渡り」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2020/10/30 17:01
カメルーン戦に先発出場した大迫勇也。しかし彼を招集するということ1つをとっても、非常に難しい綱渡りを強いられた
現場に誰もいない、という大問題
局内の意志は統一されていた。しかし、中継の態勢を整えるうえで大きな障害があった。現場に人が誰もいない、という問題である。
「そもそも局内で海外渡航が禁止されているので、下見もできなければ、中継の準備もできない。制作の僕としては、とても不安でした。そこで局内のあらゆる部署と連係して、遠隔でできることは何かを考えた。映像に関しては、JFAと代理店が現地のプロダクションを見つけ、そこが制作した映像を頂けるということでした。それなら、最低限の映像は担保されると。あとは前後のデコレーションだったり、日本テレビらしさをどう演出するか。何ができるだろうかと考えていたとき、待てよ、確かグループ会社がオランダにあったぞ、と」
そのグループ会社――NTV Europeは制作会社ではなく、美術展などのイベント事業をメインに行なう会社だったが、日本テレビで番組制作に携わった経験を持つ者も在籍していた。
「ということは、NTV Europeに協力してもらえば、国際映像だけでなく、独自の画も挿し込めるんじゃないか、と。奇跡的にうまく進んでいったんです」
日本代表の、日本のスポーツ界の力になりたい――。
TBSは「NEWS23」の枠を縮小してでも
日本テレビが抱いた思いは、コートジボワール戦の中継を決めたTBSにも共通するものだった。スポーツ局プロデューサーの御法川隼斗が語る。
「コロナ禍でスポーツが止まっているなかで、日本代表が活動を再開する。それを中継するのは、非常に意義のあること。ましてや日本代表戦はサッカーファンだけでなく、多くの方が待ち望んでいるもの。これを中継することで日本代表のサポートをしたい、日本の皆さんに元気を届けたい。そういう思いが局としてありました」
とはいえ、編成に関しては、熱い思いだけではどうにもならない。実際、TBSは看板番組である「NEWS23」を30分に縮小し、若者に人気の深夜番組をふたつ飛ばしたことから、容易な決断ではなかったことが想像できる。
「中継することが正式に決まり、スポーツ局の僕のところに話が来た時点で、試合まで3週間あったかどうか。決まったときは、中継局全体が『やるぞ!』と盛り上がったんですけど、次の瞬間、みんな散り散りになって、すぐに準備に取り掛かりました。ただ、今回中継ができたのは、編成が相当頑張ってくれたおかげだと思います」