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大迫勇也が“カメルーン戦だけ出られた”交渉とは JFA、TV局関係者が語る欧州遠征の「綱渡り」

posted2020/10/30 17:01

 
大迫勇也が“カメルーン戦だけ出られた”交渉とは JFA、TV局関係者が語る欧州遠征の「綱渡り」<Number Web> photograph by Getty Images

カメルーン戦に先発出場した大迫勇也。しかし彼を招集するということ1つをとっても、非常に難しい綱渡りを強いられた

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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10月上旬、サッカー日本代表が約1年ぶりに集合し、オランダでカメルーン、コートジボワール代表との親善試合を行った。
今回、この遠征に関わったJFA関係者、テレビ局員に取材をし、舞台裏からこれがどれほど大きな「挑戦」だったかを4回(#1#3#4)にわたって、「Jをめぐる冒険」連載中の飯尾篤史氏が深部まで描く。親善試合開催を決断した経緯を追った第1回に続き、第2回はカメルーン戦、コートジボワール戦に向けて動き出したJFAとTV局関係者の話をお届けする。

 自宅から車を走らせ、千葉県幕張にある日本サッカー協会の新たな拠点、「高円宮記念JFA夢フィールド」に通う反町康治に、朝のルーティンが加わった。

 部屋に入ると、すぐさまパソコンを起動してインターネットに接続し、ヨーロッパ各国の新型コロナウイルス感染状況をチェックするのだ。

「国ごとにクリックして、一喜一憂じゃないけど、『あー』とか『おおっ』とか。イタリアもスペインもどんどん増えていくし、フランスのマルセイユも凄かった。それだけじゃない。オランダも爆発的に増えていって」

 夏のバカンスシーズンを終えた9月半ばごろ、休暇から帰ってきた人たちから感染が確認される事例が相次ぎ、新規感染者が再び急増していたのだ。

 あろうことか、試合会場として定めたユトレヒトも、ベルギーやフランスにおいて警戒地域に指定され、予断を許さない状況が続く。

「状況はコロコロ変わっていって、イタリアやスペインはオランダからの帰国後に自主待機があるとか、マルセイユからも難しいとか。毎日、ここがダメになった、オーケーになったって。これで本当に代表チームが組めるのか。無理だなと思ったことは一度や二度じゃない。本当に綱渡りだったね」

「プランB、C、Dと用意しました」

 こうした窮地に、JFA会長の田嶋幸三は複数のプランを用意するよう、競技運営部に指示を出した。この機会を逃せば、日本代表は2020年に一度も活動を行なえない可能性が高まるのだ。それだけはなんとしても避けたい。

 オランダで開催できない場合はどうするのか、スペインやイタリアでプレーする選手が入国できない場合はどうするのか、フランスでプレーする選手を派遣してもらえない場合はどうするのか……。競技運営部・部長の平井徹が振り返る。

「プランB、プランC、プランDと用意しました。実際、スペインのスタジアムも押さえたし、オーストリアやスイスにもあたりを付けていた。でも、オプションになっていたかというと、どうだったか。ヨーロッパは全体的に感染者が増えていたし、日本代表は移動できても、カメルーン、コートジボワールの選手たちを受け入れてもらう交渉をする時間まであったかどうか……」

 真剣な眼差しから、いかにぎりぎりの交渉を進めていたかが伝わってくる。

【次ページ】 ブレーメンは派遣を拒んできたが

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大迫勇也

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