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カープスカウト“鬼のプレゼン”「4位じゃ絶対取れません」 無名だった鈴木誠也、ドラフト2位のウラ側
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2020/10/18 17:02
2012年のドラフトで2位指名を受け、広島に入団した鈴木誠也(写真は2019年撮影)
「最初からものが違うなぁと思いました。脚が速くて、体に力があって、スイングも速い。スイングスピードの数値は忘れちゃいましたが、すごい数字が出る選手でした。木のバットでバッティング練習をしてもいい打球を飛ばしました。高校の時はピッチャーをしていたんですけど、外野を守ることもあった。こんな能力の高い選手は見たことがなかったですね」
尾形は初めて鈴木を見て以後、こまめに動向を追うようになった。スカウティングに行けば行くほど、その魅力に取り憑かれた。尾形が幸運だったのは、二松学舎大附の市原監督が大学の先輩にあたる人物で、情報を得やすかったことだ。性格面はもちろん、プレーの特徴なども知ることができたし、直接グラウンドに行くこともしばしばだった。
「走る姿と立ち姿が格好良かった」
とはいえ、尾形が試合で見る鈴木はそんなに好結果を残したわけではなかった。「ひっかけるケースが多かった」と回想する尾形がそれでも鈴木に惚れた理由は別の部分だ。
「走る姿と立ち姿が格好良かったし立ち居振る舞いなどの雰囲気ですね。誠也が常にヒットを打っていたというわけではなかったんですけど、凡打を打って一塁まで走っている姿とか、ベンチに帰ってくる様子とかを見ていて、体の全身にバネがあるような感じで走っているんですよ。ストライドが大きいのもあるんですけど、そういうのをみて、いいなぁ、野球選手だなって。実際、練習などを見に行ったら、木製バットでもうしっかり打ち返していたんで、実力は問題ないって思いました。監督からもすごく練習熱心な子だって聞いていましたから」
誠也を獲りたい――。
尾形は2012年のドラフトを前にして、そう心の中で誓っていた。
しかし、一筋縄ではいかない。
“プレゼン”で勝負するしかなかった
そもそも、試合で結果が出ていない鈴木を推す要素が乏しかったのだ。特に、広島は12球団の中では珍しくクロスチェックをしないことで知られている。スカウト同士が担当以外の選手を見ることがなく、単純比較をしないのだ。甲子園に出場する選手については、全スカウトが見ることになるが、そうでない選手に関しては多くのスカウトの目を入れることはないのだ。自分しか知らない選手である一方、チーム内のスカウトにもその素材の姿を知ってもらうことができないのだ。
スカウト会議においての“プレゼン力”で勝負するしかなかった。