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カープスカウト“鬼のプレゼン”「4位じゃ絶対取れません」 無名だった鈴木誠也、ドラフト2位のウラ側
posted2020/10/18 17:02
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
KYODO
10月26日、プロ野球ドラフト会議が行われる。「人生の分岐点」とも言える運命の1日。各球団はどんな“指名戦略”で臨んでいるのか。広島カープのスカウトが回想する2012年のドラフト。甲子園で実績を残している北條史也ではなく、無名の鈴木誠也をなぜ指名したのか。(全2回の2回目/中日ドラゴンズ編から続く)
ドラフトが終わってから二松学舎大附を訪れた広島の担当スカウト尾形佳紀は、同校の市原勝人監督から聞いた言葉に一瞬、ゾッとした。
「ドラフトの当日、北海道と福岡のテレビ局が取材に来ていたそうなんですよ。TVが来るってことはそれだけ指名の可能性が高かったということじゃないですか。危なかったと思いました」
2012年のドラフト会議、大阪桐蔭・藤浪晋太郎(阪神)、亜細亜大・東浜巨(ソフトバンク)、東海大の菅野智之(巨人)、創価大・小川泰弘(ヤクルト)、三重中京大・則本昂大(楽天)ら実力者が顔を揃えたこの年、広島は当時無名だった二松学舎大附のスラッガー鈴木誠也を2位で指名した。
尾形のスカウト人生にとっても大きな意味を持つ大英断のドラフトだった。
甲子園4本の北條か、未出場の鈴木か……
当時の広島を悩ませていたのは、ショートストップの逸材2人の選択だった。
1人は光星学院の北條史也(阪神)、もう1人は、高校時代は投手ながらプロ入り後は内野手になると噂されていた、鈴木誠也だった。
甲子園で一大会4本塁打を打ち、甲子園通算29打点の最多タイ記録をマークした北條と甲子園未出場の鈴木。誰もが評価するのが北條である中、担当スカウトの尾形だけは「鈴木の方が潜在能力は上」と信じて疑わなかった。
だが、すでに有名な選手とそうでない選手。獲得にこぎつけるのは茨の道だった。
「高校の時はピッチャーをしていたんですけど……」
そもそも尾形が鈴木を「獲りたい選手」だと思ったのは、彼がまだ高校1年秋のことだ。