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新大関・正代の“素顔”とは? 「大関になれたらな~」と思わず漏らした3年前
posted2020/10/02 11:03
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Tadashi Shirasawa
インタビュー時、紺地の着物に裸足姿で現れた正代。手には足袋を持ち、困ったような顔で口を開いた。
「どうしましょ……? 付け人が用意してくれていたこの足袋が、両方とも左足用なんですよ~(笑)。他の足袋などは全部、大阪場所の宿舎に荷物として送っちゃったんですよね」
スタッフ一同爆笑しつつ、窮余の策で、裸足の右足が写らないポーズで撮影したのを思い出す。
これは今から3年前、2017年初場所に新関脇として土俵に上がった当時のことだ。13日目に負け越しが決まるも、その後を2連勝で締め、7勝8敗で場所を終えた。
「14日目に勝った時に、記者さんから『あと一番勝てば小結に残れるのでは?』と言われ、緊張しました。もちろんもう一番も勝って勝ち越していたらよかったんですが、負けても後悔する相撲は取っていないんで」
そうきっぱり言い切っていた。
「僕は立ち合いで変化したことがないんです。見ている人達が、雰囲気で『この一番はどっちかが変化するんじゃないか』と、なんとなく不安に思うことがあるでしょう? でも僕の場合は絶対に変化しないので、安心して見てほしいですね。変化って普通に当たるより難しいんです。ポリシーとかプライドとかじゃなくて、難しいからできないだけなんですけどね(笑)」
顎が上がり、胸が開いてのけぞるような立ち合いが悪癖として指摘され続けて来たが、この時も、「もう少し前傾できればまた変わるのかもしれないし、もしかしたら僕には合わないのかもしれない。今の相撲が崩れない程度に修正していきたいですね」と素直に慎重に受け止めていた。
「エリートっぽいだけですよ」
言葉どおり、そのスタイルは変わらないものの、ここ数場所で前に出る圧力と踏み込みが強くなり、立ち合いの癖もなりを潜めて初優勝と大関昇進を手中にしたのだった。
振り返れば、東農大2年時に学生横綱に輝くが、卒業を優先したために幕下付け出し資格を失効。2014年3月、前相撲から初土俵を踏んだ“叩き上げのエリート力士”でもある。