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タブロイド紙の“煽り報道”に要注意 ランパードがチェルシーで名将となるための試練
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byGetty Images
posted2020/09/23 19:00
2000年代チェルシーの中盤を取り仕切ったランパード監督。現役時と同じくメディアとの付き合い方も1つの大事な要素となるはず
モウリーニョとヒディンクと人心掌握
しかしランパードは選手たちに、とくに若手に支持されている。メイソン・マウント、カラム・ハドソン・オドイ、タミー・エイブラハム、ビリー・ギルモアといった下部組織出身者は、ランパードの指導によってたくましく成長した。この、信頼関係は強固な組織を築くうえで必要不可欠であり、アブラモビッチも無視はできないだろう。
また、ハキム・ツィエクとティモ・ベルナー、カイ・ハバーツの移籍交渉にはランパードが深く関与しているため、彼らの心もつかんでいる可能性が高い。就任2シーズン目にして、人心掌握は確実に進んでいると考えられる。
名監督の条件として、人心掌握は必須のテーマだ。ポルトからチェルシーに着任した当時のジョゼ・モウリーニョ、オランダが産んだ名将フース・ヒディンクなど、アブラモビッチ体制で成功を収めた者は、現場で熱く支持されていた。
スコラーリ、ベニテスが失敗した理由
一方、スコラーリは退屈すぎる練習が主力に嫌われた。ベニテスはロッカールームの主導権争いに気を遣いすぎ、ビラス・ボラスは上から目線が反感を買った。チェルシー特有の権力闘争があったにせよ、スコラーリもベニテスもビラス・ボアスも、選手にはまったく支持されていなかった。
リバプールはユルゲン・クロップ監督、選手、フロント、そしてサポーターを含めた熱くて濃密な絆が魅力のひとつだ。マンチェスター・シティも、ジョゼップ・グアルディオラ監督のポゼッション原理主義を、組織全体がよく理解している。ランパードと選手の信頼関係は、近年の成功例に相通じるものがある。
メディアコントロールも名監督の条件に挙げられる。
イギリスのジャーナリストは執拗だ。4年前、重箱の隅を楊枝でほじくるような質問を繰り返し、グアルディオラがキレた例もある。辛辣な内容をジョークで切り返す、クロップのような余裕が欲しい。
慌てても騒いでも、悩みを打ち明けてもメディアは心配もしない。格好のネタと舌なめずりしながら接近してくる。あのサー・アレックス・ファーガソンでさえ、マンチェスター・ユナイテッドの監督に就任した当初は記者会見で不安を吐露し、チームに混乱を招いた。
近年の悪例はモウリーニョだろう。レアル・マドリーとチェルシー、トッテナムで内向きの批判を繰り返している。人心が離れていくのは当然だ。