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久保建英を「《本物の天才》と呼んでいいのか」……エムボマが語る“目を見張る才能”とは
posted2020/09/21 11:50
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Getty Images/Hideki Sugiyama
フランスのテレビ局・カナルプリュススポール・アフリークで解説者を務めるパトリック・エムボマ(49歳)は、リーガ・エスパニョーラの試合を毎週かかさず見ている。9月13日の第1節、久保建英が後半32分から出場を果たしたビジャレアル対ウエスカ戦もエムボマが解説を担当した。
ガンバ大阪をはじめ東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸でJリーグのキャリアを重ねた日本をよく知るエムボマが、久保の現状と可能性を語った。
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「最高レベルで成功できる資質」をすでに備えている
まず素晴らしい才能であるのは間違いない。ドリブル、シュートの能力、プレーの視野……。久保は本物のフットボーラーの資質をすべて持っている。19歳という年齢で彼はすでに成熟している。日本人としては驚くべきことだ。
というのも日本の若者たちは、規則や規範に従うようにという教育を、徹底的に受けているからだ。その道筋から外れたときに、中田英寿や中村俊輔がそうであったように、状況に適応するまでにある程度の時間がかかる。だが、久保は、最高レベルで成功できる資質をすでに十分に備えている。そしてその資質を、中田たちよりももっと若いときに発揮することができる。
ただ、彼を、溢れるばかりの才能を見せつける《本物の天才》と呼ぶことへの躊躇いは常にある。メッシやネイマール、ムバッペはそう呼んで差し支えない存在だ。だが、久保に対しては、彼らと同じレベルの《本物の天才》と呼ぶことへの躊躇いを感じている。
ライバルを退けて「最低25試合」は出場して欲しい
久保がラ・マシアで育成された事実は、彼がバルセロナのスカウトの目にかなう才能を持っていたことを証明している。日本人選手がプレーで率先してイニシアチブを執ることは稀だが、久保はラ・マシアでの日々を過ごすうちに自然とそうした気質を身に着けた。成長はバルセロナのルール違反(18歳未満の外国人選手獲得・登録に関する違反)で妨げられたが、日本に戻ってからも彼は時間を無駄にはしなかった。アフリカには存在しない恵まれた環境で、彼は自らの能力をさらに開花させていったのだった。
Jリーグの主軸となるクラブで、久保は能力を示す機会を得た。スペインの3部でプレーするよりは、Jリーグでプレーする方がずっといい。大人に混じってのプレーはフィジカルコンタクトがユースとは根本的に異なり、プレーのビジョンを豊かにし自分が選択したプレーへの責任感を育む。久保にとっては、レアル・マドリーのリザーブチームですらもはや成長の場ではなかった。
若い選手の成長プロセスを加速させる際には常に注意する必要があるが、久保のスペイン復帰は非常にスムーズだった。ラ・マシアでの経験がスペインで成功するための条件を自然に彼に刷り込み、マジョルカにレンタル移籍された際にも適応に時間がかからなかった。高いレベルのプレーを維持し続け、将来的に世界のトップクラスに到達しうる資質を見せつけた。今季もビジャレアルへのレンタル移籍はいい選択だった。確実なランクアップであるからだ。