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なぜ久保建英はスタメンに選ばれなかったのか……それでも「直接FKを任されたことに意味がある」
text by
中西哲生+戸塚啓Tetsuo Nakanishi + Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2020/09/15 20:00
ベンチスタートとなった久保は、77分から途中出場した。この開幕戦を中西哲生氏が解説する。
難しい状況でも任された「後半ATの直接フリーキック」
プレーについては特筆すべきものはなかったものの、大きな減点材料もなかったと思います。
ボールロストの場面については、マジョルカとの違いに触れなければなりません。マジョルカでの久保は3トップの右サイドを基本ポジションとして、チャンスメイクを担っていました。その多くはカウンターやネガティブトランジションの局面で、スペースと時間にわずかでも余裕がありました。相手のゴールに対して前向きにパスを受け、パワーを持ってドリブルする機会も多かった。
それに対してウエスカ戦の久保は、昨シーズンとまったく異なる状況に立たされました。投入された時間帯は1対1のスコアで、アウェイのウエスカは勝点1を持ち帰るために自陣に守備ブロックを敷いている。守備ブロックのなかでは、前を向いてパスを受けることもままならない。トップ下に入った久保は、スペースと時間の余裕をほぼ与えられませんでした。
攻撃のタスクを遂行するのが難しいなかでも、敵陣での仕掛けでファウルを誘い、2本の直接FKを獲得しています。後半のアディショナルタイムにつかんだ直接FKは、久保自身がキッカーを務めた。
ゴールを直接狙える距離と角度ではなかったので、そのままキッカーを任されたのかもしれません。それでも、この事実には意味があります。
左利きの選手にゴールへ向かっていくインスイングのボールを蹴らせたいのなら、ヘラルド・モレノやチュクエゼもレフティーです。彼らをゴール前に置きたいから久保が蹴ったのだとしても、チームに馴染んでいない選手には任せないでしょう。右足でも十分に信頼を寄せられるパレホらがいたのですから。
マジョルカでのデビュー戦も、後半途中だった
20分弱のプレーを通して感じさせたのは、マジョルカよりいいタイミングでボールが出てくるということです。久保は環境に順応してさらに進化をしていくタイプの選手で、ビジャレアルのアップテンポなパス回しや選手同士の距離感、サポートの角度などに慣れていけば、彼のクオリティは確実に上がっていく。
この試合では終了間際にシュートを放ちました。ペナルティエリア内左から左足で狙いましたが、チーム全体として押し込むことでシュートシーンが訪れた。今後もこういったチャンスは巡ってくるはずで、得点もアシストも狙っていけるでしょう。
好印象を残したマジョルカでのデビュー戦も、後半途中からの出場でした。決定的な仕事もできませんでしたが、いまとなってはほとんどの人の記憶から消え失せているでしょう。その後の彼が、インパクト大のプレーを見せていったからです。ビジャレアルでも同じように、人々の記憶をどんどん上書きしていけばいいのです。